世界中から愛されたエリザベス女王

 イギリスの偉大な君主として、70年にわたり在位したエリザベス女王の国葬が9月19日、荘厳かつしめやかに執り行われました。その模様は世界各国に生中継され、数百万人が視聴したとか。最後まで多くの人びとの視線を一身に集めてきたエリザベス女王らしく、生前の様子もまた、膨大な数の映像におさめられていました。

 特にカラーフィルムが普及し、解像度の高いビデオの時代になると、ビビッドな原色に近い色合いの服をお召しになられることが多くなり、その華やかさはひときわ目を引くものになりました。

 エリザベス女王は「遠くからでも私が来たことがわかるように」と、あえてビビッドな色合いの服をお召しになっていました。イギリス国民の3人に1人が、エリザベス女王に実際に会ったことがあるという説も、目立つファッションの効果と言っても過言ではないはずです。

 常にその一挙手一投足が注目される立場の方にとって、何を着るかは、その後の評価にも大きな影響を与えます。ましてや海外への訪問や要人への接遇ともなれば、単なるお召し物ではなく、無言のメッセージをまとった意思表示として受け取られる場合があるのです。もちろん、それは友好と親善を深めるためのちょっとした気遣いや、親しい間柄だからこそ許される遊び心といったものでした。

 エリザベス女王が、1975年(昭和50年)に訪日し、東京都心をオープンカーでパレードした際には、白地に鮮やかな赤が鹿の子風に散りばめられた、ワンピースをお召しになっていました。まさに日本の国旗である「日の丸」を意識され、ファッションで敬意を表そうとの意図が含まれていたと言われています。またイギリスの国花は「赤いバラ」。両国の友好も示したかったのかもしれません。 

 こうしたエリザベス女王のファッションに対する考え方は、当時、親しくお話をされていた上皇后・美智子さま(当時は皇太子妃)に、多大な影響を与えたものと拝察いたします。

 なぜなら、その後の美智子さまの外遊時のファッションをたどると、エリザベス女王と同様のメッセージをお召し物に込められているように見受けられるからです。

2022.09.22(木)
文=つげのり子