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◆2位『恋じゃねえから』渡辺ペコ

 恋人の裸の写真を、本人の許可なくアート作品のモチーフにすることは是か非か。それが25年も昔の姿だった場合は? その写真が合意の上で撮られたものだったとしたら? コンプライアンスとハラスメントの関係が緻密に議論されるようになった現代ならではのテーマに切りこんだ本作は、早くも話題を集めています。

 物語の主人公は40歳の主婦・茜。中学時代、憧れていた塾講師の今井先生が親友の紫と恋人同士になったことに嫉妬を覚え、紫と距離を置いた記憶は胸の痛みとなっていました。彫刻家となった今井が発表したあのころの紫と思しき少女の裸像を見ると、素直に「美しい」と感動するのですが──。くだんの彫刻作品を見た紫の反応を見て、ことの重大さに気づいた茜は、自分もこの“問題”に挑むことを決意するのです。

 法の「裁き」はケースバイケース。状況や個々の認識などの微細な違いによって「性加害」といえるかどうかは異なってきます。女性同士であっても同じ視点に立っているとは限らず―ルッキズムも絡む同性間の複雑な感情の描写も胸に刺さります。夜、己の心と静かに向き合いながら、じっくりと読解していきたい作品です。

「性加害を『アートだから』なんてもう言わせない!」(ライター 井口啓子さん)

「創作と性的搾取の線引きという難しい問題に、これまでにない発見をもたらしてくれそう」(ライター・ブックカウンセラー 三浦天紗子さん)

「前作で夫婦のあり方を問うた渡辺ペコさんの新境地。健全な社会を作っていくための『理解』を促してくれる」(物書き SYOさん)

『恋じゃねえから』渡辺ペコ

講談社 726円 既刊1巻

井口啓子(いぐち・けいこ)
ライター

雑誌「ミーツ・リージョナル」にてコラム「おんな漫遊記」を連載中。女を描いた昭和の劇画家・上村一夫が好きすぎて展示を企画したり、小冊子を作ったりも。

三浦天紗子(みうら・あさこ)
ライター・ブックカウンセラー

「an・an」「CREA」をはじめとした女性誌や、文芸誌などで書評やインタビューを担当。著書に『震災離婚』(イースト・プレス)など。趣味はベリーダンス。

SYO(しょー)
物書き

映画やドラマ、アニメといったエンタメ系からライフスタイルまで幅広く執筆。これまでインタビューした人物は300人を超える。Twitter:@Syocinema

2022.09.18(日)
Text=Kozue Aou
Photographs=Ichisei Hiramatsu

CREA 2022年秋号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

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