©1989 角野栄子・Studio Ghibli・N
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「四階建ての構成」の『魔女の宅急便』

 では『魔女の宅急便』はどのような作品だったのだろうか。宮崎が語る通り本作が「一人暮らしを始めた女の子が通過儀礼を経て成長する」という物語であるのは間違いない。とするとやはりポイントとなるのは、映画後半に登場する、キキが飛べなくなるという展開だろう。

『魔女の宅急便』は20分~30分のブロックを四階建てにした構成でできている。コリコの街にやってきて宅急便を始めるまでが最初のブロックで第一幕。そして次のブロックが、新生活と宅急便の仕事での出来事をドキドキハラハラと楽しく描く第二幕前半。そして第二幕後半で、キキが飛べなくなる様子を描くことになる。

 

 細かく見ると第二幕後半の前半は大きく2つのエピソードでできている。

 1つ目は、キキがトンボにパーティーに誘われるエピソード。その後、奥様と呼ばれる老婦人の依頼でニシンのパイを運ぶが、雨に降られ、しかも届けた奥様の孫娘はそのパイに対して全くうれしくなさそうな態度をとる。結局、濡れネズミのキキは、パーティーにも間に合わなくなってしまう。

©1989 角野栄子・Studio Ghibli・N
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 2つ目は、雨のためひいた風邪が治ったキキは、トンボと会うことになり、人力飛行機のエンジンになる自転車で海辺へ向かう。距離が近づいたかに見えた2人だが、トンボが女友達と親しげに会話する様子をみて、キキは不機嫌になりトンボをおいて一人で帰宅してしまう。

苦労して荷物を届けても感謝されるとは限らない。“自分に唯一出来ること”は“無意味”なのか…

 この2つのエピソードを経て、キキはホウキで飛ぶことができなくなってしまう。どちらもトンボへの好意が底にあるエピソードではあるが、この2つは恋愛のエピソードというより、「疎外感」を描いたエピソードだと考えたほうがわかりやすい。

 苦労して荷物を届けても感謝されるとは限らない。自分の仕事とはいったいなんなのか。自分の唯一できることが、意味のないことだったら……。という自問自答がキキの中に疎外感を生む。

2022.05.13(金)
文=藤津亮太