まず観客構成は男性48.7%、女性51.3%。男女がほぼ拮抗し、やや女性が多い。観客の年齢は平均が21.0歳。過去の宮崎監督作品接触度としては、『風の谷のナウシカ』52.5%、『天空の城ラピュタ』47.3%、『となりのトトロ』38.5%、「見ていない」32.7%という結果になっている。

 この数字を踏まえ同書は「映画館で見た観客はもちろんのこと、後にビデオやTV放映で『ナウシカ』『ラピュタ』を見た女性たちが宮崎監督のファンになり、その新作『魔女の宅急便』に押し寄せたということでしょう」と分析している。

 この分析はそのとおりだと思うが、前年の『トトロ』ではそのマジックがなぜ効かなかったのかを考えると、もうひとつ別のファクターも重要だったのではないかと思われる。

『魔女の宅急便』が舞台としたのは、古き良きヨーロッパを思い起こさせる少しレトロな街(宮崎は「第二次世界大戦を経験しなかったヨーロッパのどこか」とその世界観を形容している)で、これはいわゆる“名作劇場”――1974年の『アルプスの少女ハイジ』が切り開いた路線――に近い雰囲気を持っている。

©1989 角野栄子・Studio Ghibli・N
©1989 角野栄子・Studio Ghibli・N

 観客は平均年齢21歳だから、だいたい1968年ごろ生まれということになる。この世代はまさに“名作劇場”とともに子供時代を過ごした世代であり、スウェーデンなどをロケハンした『魔女の宅急便』にシンパシーを感じやすかった、という要因も無視できないのではないだろうか。

 なお『魔女の宅急便』の配給収入は、その時点でのアニメ映画歴代1位の記録、そして1989年の国内の映画興行収入ランキングでは第3位、邦画に限れば1位という数字だった。スタジオジブリはこの後、1990年代を通じて、このレベルのヒット作を連続して送り出し、国民的なブランドという地位を築いていく。

 原田の言葉に鈴木が行動を起こさなければ、鈴木の働きかけに日本テレビが応じなければ、スタジオジブリは『魔女の宅急便』で解散していた可能性も十分ありえたのだ。

2022.05.13(金)
文=藤津亮太