会社を飛び出てしまったら?

安藤 ちきりんさんが、今回「働き方」について書かれたきっかけは何だったんですか?

ちきりん ここ5年くらい“世の中が大きく変わる感じ”を強烈に感じてたんです。テクノロジーが生活のあらゆる面を変えていくし、グローバル化も進んでます。産業革命とか明治維新レベルの変化が起きているなと。そういう時は人の働き方、生き方も変わるはずだと思って本にまとめました。安藤さんも、『冒険に出よう』という本を出されて、ご自身でも新しい働き方をされていますよね。

安藤 そうですね。3年前にフリーランスになり、今は、肩書きを決めない、営業活動をしない、専門領域をしぼらない……など、いくつかルールを決め、自分の中にあるスキルやコンテンツを掛け合わせることによって、教育の仕事から商品企画まで、様々な仕事をやるという働き方を実験的にやっています。

ちきりん 最初は大手出版社にお勤めだったと聞きました。

安藤 はい。会社に入るまでは、いい大学出て収入の高い会社に入ること=幸せ……だと信じてきましたが、入社して数年で抑鬱状態と診断され、「今の自分はそれを達成したけど全然、幸せじゃないじゃない……」と。

ちきりん 独立直後は大変でしたか?

安藤 大変どころか、最悪でした(笑)。わかりやすい名刺がなくなったとたんに、あなたは何者で、何をしていて、どうしたいのか、という3つの問いに常に答え続けないといけなくなったんです。だけど、自分自身が何をやりたいか分からなかったし、決めたくもなかった。最初は、フリーで本のPRの仕事を細々とやっていましたが、その仕事なら出版社でやっていたほうがポジションも収入もいいわけで……。1年間くらいはずっともがいていましたね。

独立するときにイメージしていたロールモデルは?

ちきりん 独立するとき、こうなりたいというロールモデルのイメージはあったんですか?

安藤 少し上の方たちですが、おちまさとさん、小山薫堂さん、秋元康さん、高城剛さん。一言で言うなら「ポートフォリオワーカー」だと気づきました。

ちきりん 複数のいろいろな仕事を同時並行でこなす働き方ですね。

安藤 「ポートフォリオワーカー」をテーマにすれば、何かひとつにテーマを絞れないというコンプレックスを強みに変えて、ひとつの組織、ひとつの肩書き、ひとつの仕事に頼らない生き方が実現できそうだな、と思ったんです。

ちきりん 「ポートフォリオワーカー」もそうですし、世の中の変化に伴って、昔はなかった職業や、一言では説明できないような新しい職業が、どんどん出てきてますよね。

安藤 先日、「無職説明会」というイベントが開かれ、若者が大挙集まったんですが、その中心メンバーで、人の顔を広告スペースとして使う「顔面広告」のビジネスをやっている大川竜弥さんは、「無職にもスキルが必要だ」と言っていました。無職もひとつの職業というかね。

ちきりん アイデアさえあれば、「こんなことでお金もらえるの?」ということが、仕事になる時代です。個人が営業をするのも容易になっているし、今の世の中、会社に雇ってもらえなければ人生終わり、なんてことはまったくない。一人分稼ぐくらいなら、何かしらやって食べていけると思います。

安藤 同感ですね。仕事は、もらうものではなくて、自分で作るものだと思います!!

ちきりん でも、こういうことを言うと、それは強者の論理だ、と言う人がすごく多い。

安藤 そう! 若者を無責任にあおるなとか。

ちきりん でも、「外は怖いぞ」と脅している人の中には、自分は一度も会社の外に出たことがない人も多いんです。一度、外に飛び出れば、「なんとかなる」と分かって肝が据わり、その後の人生設計がすごく楽になることも多いのに。
 時代の変わり目には、あまり親や上司など古い時代の人の意見に惑わされないほうがいいと感じます。明治維新が起こったのに、武士として成功してきた人のアドバイスをありがたく聞いているのはどうかと(笑)。

安藤 少なくとも『冒険に出よう』を読んで、冒険して失敗したから責任とってください、と言ってきた人は一人もいませんからね(笑)。

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2013.07.08(月)
photograph:Miki Fukano

CREA 2013年8月号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

聡明な女は“週末料理”がうまい!

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