トーベの好きな音楽はジャズとクラシック――撮影裏話を語る

――今回、音楽でスイングジャズが何度もかかっていましたが、音楽にはどういう意図を込めたのでしょうか?

 当時トーベがアトリエで流していた音楽がクラシックとジャズだったんです。なのでトーベの好んだダンスを劇中で描く際、ジャズ、とりわけ『SING, SING, SING』をキー・ミュージックとして使用しました。

 人生におけるメランコリーな時期でさえも前を向いていたトーベを表す曲としてもマッチすると思います。

――撮影時に印象に残っていた裏話などはありますか?

 実は、新型コロナウイルスのせいでパリでの撮影ができなくなってしまったんです。この緊急事態にかなり慌てまして、急遽フィンランドのトゥルクという街をパリに見立てて撮影しました。

 街中にアウラ川という川が流れているんですが、これがパリのセーヌ川に似た雰囲気を持っていたので、なんとかマッチしてことなきを得ましたよ!

――作品を撮り終えて、改めて監督はトーベをどんな人物だと思いますか?

 トーベという人が私のなかで仲の良い友人のようになったのと同時に、まだ彼女を知りきれていないという思いもあります。たぶん、彼女に接する・想う人によって、トーベという人物が象徴するものは変わるのでしょう。それほど千差万別なのに、誰もが彼女と個人的な“繋がり”を持てるのがおもしろいですよね。

 個人的には、トーベは私の大好きなキャラクターであるミイ、そして繊細なムーミンに似ているなぁ、とも感じています。

――最後に、日本の観客に向けてこの作品の魅力を教えてください。

 トーベが何かとぶつかったときに、まっすぐ問題に向かっていく姿に喜びや勇気を感じてもらいたいですし、彼女から“自分の心のままに生きることの大切さ”を感じてもらえたら嬉しいですね!

ザイダ・バリルート(Zaida Bergroth)

1977年フィンランド・キヴィヤルヴィ出身。『僕はラスト・カウボーイ』(09)、『グッド・サン』(11)、『マイアミ』(17)などで知られる。世界各国の映画祭へ出品され、釜山国際映画祭やシカゴ国際映画祭などで受賞を果たしている。本作は彼女にとって5本目の監督作。

映画『TOVE/トーベ』

第二次世界大戦下のフィンランド・ヘルシンキ。激しい戦火の中、画家トーベ・ヤンソンは自分を慰めるように、不思議な「ムーミントロール」の物語を描き始める。戦争が終わり、厳格な父との軋轢、保守的な美術界との葛藤の中で満たされない日々を送っていたトーベだが、ある日、彼女は舞台演出家のヴィヴィカ・バンドラーと出会い激しい恋に落ちる。それはムーミンの物語、そしてトーベ自身の運命の歯車が大きく動き始めた瞬間だった。

2021年10月1日(金) 新宿武蔵野館、Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか 全国ロードショー

出演:アルマ・ポウスティ(トーベ・ヤンソン)、クリスタ・コソネン(ヴィヴィカ・バンドラー)、シャンティ・ロニー(アトス・ヴィルタネン)、ヨアンナ・ハールッティ(トゥーリッキ・ピエティラ)、ロバート・エンケル(ヴィクトル・ヤンソン)
監督:ザイダ・バリルート
脚本:エーヴァ・プトロ
音楽:マッティ・バイ
編集:サム・ヘイッキラ
https://klockworx-v.com/tove/

2021.09.29(水)
文=TND幽介(A4studio)