ホントは屈強・ヒゲ面のおっさんだった!?

 聖セバスチャンは、もともとローマの軍人だったことから軍人の守護者とされ、さらには、ペストから命を守ってくれる霊験あらたかな聖人として人気が高く、アンドレア・マンテーニャ、ペルジーノ、エル・グレコ、グイド・レーニなど、名だたる画家たちによって描かれている。有名画家のほとんどがセバスチャンを何度も描いており、無名画家の作品まで含めると、その数は膨大だ。

 キリスト教がまだマイナーな宗教でローマ帝国から弾圧を受けていた3世紀ごろ、植民地出身のローマ帝国軍人であったセバスチャンは改宗し、キリスト教徒となった。弾圧する側の軍人だったにもかかわらず熱心に布教したため、「裏切り者」としてディオクレティアヌス帝の命で処刑されることになる。何本もの矢を浴びせられ、放置されたのに死なず、聖カストゥルスの未亡人聖イレー ネによって救われた。彼女の介抱で命をとりとめたが、再び布教活動に戻ったところをディオクレティアヌス帝に見つかり、今度は殴り殺され、遺体は誰にも見つからないように捨てられたという伝承になっている。

 この殉教者セバスチャンの姿は、中世あたりまでは、立派な顎ヒゲのある屈強な壮年のローマの軍人として描かれていた。つまり、フツーにヒゲ面のおっさんだったのだ。

 それがルネサンスの頃になると、まだヒゲも生え揃わないような紅顔の美青年が、衣服をはぎとられ、あられもない姿態で木に縛りつけられ、大きな瞳で天を振り仰ぐという構図に変わっていった。

 それは、なぜなのか? 次回のコラムでレクチャーしよう。

岩渕潤子

岩渕潤子 (いわぶち じゅんこ)
AGROSPACIA取締役・編集長、青山学院大学総合文化政策学部・客員教授。
著書に『ニューヨーク午前0時 美術館は眠らない』、『億万長者の贈り物』、『美術館で愛を語る』ほか。
twitterアカウントは@tawarayasotatsu

Column

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2013.06.01(土)