あの作家の受賞以降 受賞者は一躍「時の人」に!
しかし、芥川賞・直木賞も始まった当初は、受賞作が発表されても社会的反響は今ほど大きくはなかった。第31回芥川賞受賞の吉行淳之介は、「社会的話題にはならず、受賞者がにわかに忙しくなることはなかった」、第33回芥川賞受賞の遠藤周作も、「授賞式も新聞関係と文藝春秋社内の人間が10人ほど集まるだけのごく小規模なものだった」と書き残している。
そんな状況が、昭和30年の第34回から一変した。一橋大学在学中の石原慎太郎が『太陽の季節』で芥川賞を受賞したのである。無軌道な若者たちを描いた同作は大ヒット、「太陽族」と呼ばれる若者たちが現れ、慎太郎刈りが大流行、さらに映画化作品に出演した慎太郎の弟、裕次郎はたちまち大スターに! 一大ブームを巻き起こしたことで、芥川賞・直木賞への注目度は一気に高まった。
その後も、芸術家、参議院議員、ミュージシャン……と異色な作家の受賞など話題を提供し続け、両賞の発表は風物詩的にマスコミに大きく取り上げられるようになっていく。そして、回を重ねるうちに世間の関心を集めるようになったのが、「受賞するまでにノミネートされた回数」。池波正太郎、深田祐介、宮部みゆき、東野圭吾、北村薫らは6回目、白石一郎、阿部牧郎は8回目のノミネートで直木賞を受賞。過去最高記録の古川薫は、なんと10回目! 最初に候補になってから四半世紀の時を経て、直木賞作家となっている。
これに対し、第130回の芥川賞では、当時20歳の金原ひとみと19歳の綿矢りさがともに初候補作でW受賞。芥川・直木両賞通じて現在も最年少トップ2の同時受賞に、日本中が大騒ぎ! 贈呈式には100台以上のカメラが並び、受賞作が掲載された『文藝春秋』は雑誌としては異例の3度も増刷、創刊以来最高部数を記録するほどだった。
そして、平成22年の第144回以降は、インターネットの動画サイト「ニコニコ生放送」による受賞会見のネット中継もスタート。西村賢太の「そろそろ風俗行こうかなと思っていた」、田中慎弥の「もらっといてやる」発言が広く拡散し、大反響を呼んだ。最新の第148回も、史上最年長の芥川賞作家と戦後最年少の直木賞作家が誕生、熱い視線を集めたのも記憶に新しい。あと2回でいよいよ第150回を迎える両賞、今後の展開も見逃せない!
2013.05.04(土)
text:Yoshiko Usui
photographs:Mami Yamada / Bungeishunju