●男子校出身なのに、女性の方が話しやすい?
――19年の大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」で演じられた主人公(金栗四三)の同級生・平田も印象的でした。
じつは撮影は「まんぷく」より「いだてん」の方が先なんですが、あのとき坊主にしたから、「まんぷく」も坊主なんです。どちらもスゴいセットの中、錚々たる方々に囲まれて、常に圧倒されていました。中村勘九郎さんや永山絢斗さんが現場を盛り上げていらっしゃる姿を見ながら、第一線で活躍されている方の現場の居方みたいなものを学ばせてもらいました。
養成所のときに「目標は宮藤官九郎さんのドラマに出ること」と書いた紙を冷蔵庫に貼っていましたし、このときぐらいから、仙台で美容師をやっている母親から、お客さんから「ドラマ見たよ」と言ってもらえるようになったと聞いて、嬉しかったです。
――“塩軍団”以降、映画『とんかつDJアゲ太郎』(2020年)での本屋の息子・タカシや、ドラマ「直ちゃんは小学三年生」でのてつちんなど、濃いキャラの男子グループを演じることが増えた気もします。その中で、ご自身の役回りは考えられていますか?
おばあちゃんや妹がいる家庭で育ったこともあり、じつは女性の方が話しやすかったりするんです。でも、ずっと男子校だったし、サッカーをやっていたこともあって、わちゃちゃしたノリに対して、「なんか楽しそうだな」と、どこか傍から見ていた思い出はあるんです。だから、そのときの光景を思い出しつつ、グループの中の役回りと、どう面白く見えるかを考えながら、演じているのかしれません。
――そして、最新作『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』では、映画初主演を務められました。
とにかく、主演ということは嬉しかったです。ただ、池田暁監督のこれまでの作品を観て、あまりに独特な作風ゆえに、どうなるか想像がつかなかったんです。
確かにお芝居ではあるものの、独特な動きで、いわゆる普通の掛け合いのようなんです。セリフ回しも一般的な表現法とは違いますから。
でも、いろんな視点を持って、いろんな角度からアプローチするために、あえてチャレンジしようと思いました。いつもの言葉や表情での表現法を一度抜いた状態から始めました。
素晴らしい共演者のみなさんに助けられっぱなしで、主演らしいことは何もできませんでしたが……。
●僕ほど平凡な人間が似合う役者はいない
――独特なオフビートの世界観の下、からくり人形のようなキャラを演じるうえで、池田監督の演出はいかがでしたか?
監督とのリハーサルで、僕が演じる露木について、いろいろ話し合いました。動きやセリフ回しといった表現方法について、「誇張する」「抑える」といった微調整をしていきました。
それを二人の中の共通認識として持ったので、本番に入ってからは、監督からの修正は、ほとんどありませんでした。
――本作は前原さんのキャリアにおいて、どのような作品になりましたか?
演じる、表現することについての考え方が大きく変わりました。節目となる作品では自分から提示してきたつもりなので、抑えた演技をすることを、どこか恐れていたんです。
でも、この作品で、余白を持つことの大切さを知りましたし、引き出しを一個増やしてくれた作品になったと思います。とても不思議な作品ですが、多く方に観ていただいて、いろんな感想を持っていただきたいです。
――最後に、今後の展望や目標を教えてください。
時間はかかると思いますが、今後も主演・助演、どちらもできる役者になりたいです。平成生まれの、昭和顔ですし(笑)。「僕ほど平凡な人間が似合っている役者はいない」とも思っていますし、坊主が嫌でサッカーをやめたのに、坊主の役ばかりやっているのも、なんか面白いですよね(笑)。
事務所に入ったときから、三枚目キャラになると思っていたので、小栗旬さんや綾野剛さん、田中圭さんといった先輩とは違うかたちで、いろんな仕事を楽しみながらできたらいいなと思っています。
前原滉(まえはら・こう)
1992年11月20日生まれ。宮城県出身。事務所の養成所時代の2014年に俳優デビュー。その後、『あゝ、荒野』や「まんぷく」「いだてん~東京オリムピック噺~」「あなたの番です」などの映画・ドラマに出演。ドラマ「俺の家の話」(TBS系)に現在出演中のほか、21年は主演作『彼女来来』(MOOSIC LAB [JOINT] 2020-2021)が公開。
『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』
川の向こう岸にある町と、目的も分からない戦争を何十年も続ける架空の町。ある日、音楽隊に異動させられた露木(前原)は、向こう岸から聴こえてきた音楽に心惹かれる。だが、町に新しい兵器と部隊が来るという噂が広まり、彼らの生活は変化していく。
http://www.bitters.co.jp/kimabon/
3月26日(金)より、テアトル新宿ほか、全国順次ロードショー
©2020「きまじめ楽隊のぼんやり戦争」フィルムプロジェクト(VIPO、カルチュア・エンタテインメント、ビターズ・エンド)
Column
厳選「いい男」大図鑑
映画や舞台、ドラマ、CMなどで活躍する「いい男」たちに、映画評論家のくれい響さんが直撃インタビュー。デビューのきっかけから、最新作についてのエピソードまで、ぐっと迫ります。
2021.03.26(金)
文=くれい 響
写真=末永裕樹