2冊目『杳子・妻隠』(古井由吉)
繊細な筆致で男女の奇妙な関係性を描く
「言葉を読む時点で、もうそこには意識が芽生えてしまっているけれど、読んでいるうちに、またそこからどんどん無意識に戻って行けるのが楽しかったです。
そして、読みながらまた意識の方へ戻って行く。そうやって意識と無意識を行ったり来たりする、不思議な体験でした。
言葉にならないという表現が恥ずかしくなるほど、言葉で表現されています。
とにかくメンヘラという言葉が嫌いで、それを聞いたり見たりするたびに、なんかサボってるなと思い腹を立てていました。そのメンヘラという言葉をぶち殺してくれるような杳子の存在を書いた言葉が、とても頼もしいです」
◆あらすじ
ドイツ文学者でもあり、「内向の世代」の代表的作家と言われた著者による、繊細な筆致で男女の奇妙な関係性を描いた物語「杳子」「妻隠」の2作を収録。神経を病んだ女子大生「杳子」は山中で動けなくなっているところをひとりの青年と出会い、助けてもらう。その後ふたりは偶然街で再会して……。(「杳子」)。都会に住む、若い夫婦。夏のある日、夫が体調を崩し、休みをとることに。専業主婦の妻とアパートで寝ている夫のふたりだけの静謐な日常が緻密な描写で描かれる。(「妻隠」)。芥川賞受賞作。
2020.06.01(月)
文=CREA編集部