#05『マグノリア』

「読み込み要素」たっぷり 188分の群像劇

 最後に紹介するのは、「読み込み要素」がたっぷりの群像劇。

 9人の男女の身に起こる劇的な体験を、188分かけて描いたヒューマンドラマです。世界三大映画祭の1つ、独ベルリン映画祭で最高賞に当たる金熊賞に輝いた実績が示すとおり、含蓄のある深遠な物語が展開します。

 本作に登場する人物は、死期が間近に迫った大物プロデューサーやクイズ番組の司会者、ドラッグ依存症の女性、かつての天才少年、人気ナンパ師といった個性が強いキャラクターたち。

 言葉遣いも決して上品とは言えませんが、物語が進むにつれて彼らの心の奥にある悔恨や苦悩があぶり出されていき、観る者が抱く印象がどんどんと変わっていくのです。

 特筆すべきはナンパ師を演じたトム・クルーズ。爽やかなナイスガイのイメージをかなぐり捨てる下ネタのオンパレードを繰り出しながら、哀しい過去を抱えた複雑な男性を見事に演じ切っています。

 『ラブ・アクチュアリー』のようなストレートな“いい話”とは異なり、衝撃のクライマックスや、解釈が分かれる物語など、なかなかにクセの強い『マグノリア』。

『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』や『ファントム・スレッド』などの野心作を手掛けるポール・トーマス・アンダーソン監督の鬼才ぶりが際立つ一作です。

マグノリア

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ネットレンタル dTV

 3時間近くある「長時間映画」には、1時間半や2時間の作品とは違った魅力があります。

 情報量や人物描写の細やかさ、テンポの違い、シーンごとの余韻などなど……。新たな映画の面白さに触れる機会になるかもしれません。時間と気持ちに余裕がある際には、ぜひ挑戦してみてください。

※定額配信とネットレンタルは、U-NEXT、Hulu、dTV、FODプレミアム、Netflix、Amazon Prime Video計6サービスの、2020年5月8日(金)時点での情報を記載しています。

SYO

映画ライター・編集者。映画、ドラマ、アニメからライフスタイルまで幅広く執筆。これまでインタビューした人物は300人以上。CINEMORE、Fan's Voice、映画.com、Real Sound、BRUTUSなどに寄稿。Twitter:@syocinema