【今月のこの1枚】
目[mé]『アクリルガス』
現代アートチーム「目」が
視覚を揺さぶってくる!
この作品の大きな円形の表面は、多少の厚みを持って前に迫り出していて、尋常ならざる迫力を有しています。表面には赤黒い色調で、不思議な模様がびっしり付着しています。
これはいったい何なのか。チームを組んでアートを生み出している「目」の創作であるのはわかっていますが、形態や色彩から情報や含意を読み取ることは、ほとんど不可能になっています。
作品というより物体と呼びたくなるこのモノは、対峙しているとやたらに観る側の気持ちをザワつかせます。よく見れば心霊写真のように人の顔が浮かび上がってくるわけでもないし、メッセージが浮かび上がったりもしません。ただ存在自体が不気味に感じられてなりません。
なぜそんなに怖いのか。それはいくら目の前で凝視したって、この物体のことをこれっぽっちも「わかった!」と思えないからでしょう。相手を理解できないことほど、世に恐ろしいものはありませんから。
観る側が「ちっともわからない」ようでは、アート作品として失敗なのでしょうか? いえ、そうではありません。作品の意味はよくわからなくとも、未知のものに出遭ってしまった! という大きな衝撃は、観る側へ確実に伝わってきます。
「目」はその名の通り、視覚に直接刺激を届けることを目指して活動を続けてきたチーム。言葉を介して理解するのではなく、アートを体感し体験してもらうことを常に目論んでいるのです。今作はまさに好例。これが何かと言い表すのは困難なれど、モノ自体から感じ取れる事柄は極大です。
それでも、どんなことを表そうとしたかをもう少し知ろうとするなら、《アクリルガス》という作品名がヒントになりそう。もとをたどればこの作品、「途方もなく長い時間軸で見れば地球はたちまちガス惑星でしかなくなる」というメンバー間の気づきが、発想の原点になっているといいます。たとえば人の一生よりずっと長い露光時間で地球を宇宙から写真に収めたら、その姿はガスの渦にしか見えないわけです。
かように、ものごとは視点の置き方次第。それを示すため、樹脂の混ざったアクリル絵具が半立体に付着しています。惑星の一部を切り取ってきたようでもあり、絵具という単なる物質そのものにも見える作品の前へ、ぜひ実際に立ってみて。ここではないどこかへ連れ去られる感覚に襲われること請け合いです。
『目 非常にはっきりとわからない』
私たちが見ているものや現実の世界は、思いのほか不確かだ。そう実感させる作品を、手法やジャンルにこだわらず生み出す現代アートチーム「目」の、美術館での初個展。「目」のメンバーの構想と感性が、美術館空間をまったく新しいものへとつくり変える。
会場 千葉市美術館(千葉県・千葉市)
会期 開催中~2019年12月28日(土)
料金 一般 1,200円(税込)ほか
電話番号 043-221-2311
http://www.ccma-net.jp/
2019.11.27(水)
文=山内宏泰