ヴィクトリア時代の栄華をそのままに
セントパンクラス・ルネッサンス・ホテル

 シリーズ第2作の『ハリー・ポッターと秘密の部屋』では、ホグワーツ・エクスプレスに乗り遅れたハリーとロンが、空飛ぶ車でホグワーツへと向かいます。空飛ぶ車は中古の、ターコイズ・ブルーと白のフォード・アングリア。

 これは、J・K・ローリングの親友ショーン・ハリスさんが最初に所有した車で、若き日のふたりは、この車でドライブをしては人生について語り合ったと、ローリング自身がTVインタビューで話しています。

 英語版のこの本の最初のページにある「For Sean P.F. Harris, getaway driver and foulweather friend(連れ出してくれる運転手であり、必要な時にそばにいてくれる友人、ショーン・P・F・ハリスに捧ぐ)」には、そういった背景があったようです。実際に、ショーンさんのキャラクターは、作品中のロンに反映されている部分もあるのだとか。

セント・パンクラス駅のファサード。ハリーとロンがフォード・アングリアで見下ろしたのは、この風景でした。(写真提供:St. Pancras Renaissance Hotel London)

 さて、映画のなかで、空飛ぶフォード・アングリアがキングズ・クロス駅の上空に飛び立つシーンがありますが、実はこのときに使われたのは、キングズ・クロス駅と隣り合うセント・パンクラス駅です。

 ファサード部分は英国の歴史的な建築家ジョージ・ギルバート・スコットによる19世紀後半のネオ・ゴシック建築で、ステーション・ホテルとして1873年にオープン。ヴィクトリア時代の鉄道の発展とともに、一時期は栄華を極めたものの1935年には閉館の憂き目を見ます。

左:セントパンクラス・ルネッサンス・ホテルの正面玄関。ネオ・ゴシック様式の美しい建物です。
右:窓から見えるプラットホームが旅情をかき立てます。

 その後鉄道オフィスとして使われていましたが、ロンドン・オリンピックを目前とした2011年、現在のセントパンクラス・ルネッサンス・ホテルとして生まれ変わりました。寂れていた館内は、金箔張りの天井、手作業による壁のステンシルなど、オリジナルの状態に美しく修繕され、華やかなりし鉄道時代を感じることができます。

ホテルのレセプション・エリア。かつてはタクシーがここまで乗り入れていたのだとか。

 ホテルのメイン・ダイニングのひとつブッキング・オフィスは、その名前の通り、かつての切符売り場。切符にスタンプを押すためのチケットブースが、中央のカウンター部分です。

左:ネオ・ゴシック様式のアーチが美しいレストラン、ブッキング・オフィス。
右:ブッキング・オフィスでは、ヴィクトリア時代に流行したパンチを飲むこともできます。
ブッキング・オフィスの壁を飾るパネルの花は、173個すべてが微妙に違うのだそう。

 最大の見どころ、グランド・ステアケースと呼ばれる階段部分は、上から下まで切れ目のない1枚のカーペットが見事。この階段は、90年代の女性アイドルグループ、スパイス・ガールズのデビュー曲「ワナビー」のMVの舞台となったことでも有名です。

ダービー産の美しいカーペットが敷かれたグランド・ステアケース。ヴィクトリア時代のドレスを着た女性がすれ違えるように、下の階に行くほど幅が広くなっているのだそう。
左:使われているタイルも、典型的なヴィクトリア調のデザインです。
右:地下にあるスパのタイルもヴィクトリア調です。

 ハリー・ポッターゆかりの地をめぐる旅の拠点には、ぴったりのホテルです。

St. Pancras Renaissance Hotel London
(セントパンクラス・ルネッサンス・ホテル・ロンドン)

所在地 Euston Road, London NW1 2AR
電話番号 020-7841-3540
http://www.stpancraslondon.com/

【取材協力】
英国政府観光庁

http://www.visitbritain.com/jp/ja