来年は明治維新から150年。いま全県をあげて「幕末維新博」を開催中の高知県・尾﨑正直知事と、来年のNHK大河ドラマ『西郷どん!』の原作者・林真理子さんに、幕末を生きた男たちについて語り合ってもらいました。

お二人の対談は和気あいあいとした雰囲気で進んだ。

ピュアな若者たちが日本を動かす

明治維新の立役者・西郷隆盛の知られざる素顔。写真:国立国会図書館提供

尾﨑 新刊の『西郷(せご)どん!』、発刊おめでとうございます。龍馬もですが、西郷さんも大変魅力的ですね。

 ありがとうございます。西郷さんというと「ああ、あの上野にいる人ね」って感じで、実はよく知られていないんですよね。若い頃に二度も島流しにされたのを知らない人が多いし、征韓論についても誤解されている。

尾﨑 そうかもしれませんね。歴史上の偉人ということで、知名度は高いけれど。

 龍馬は西郷さんのことを評して「もし馬鹿なら大きな馬鹿で、利口なら大きな利口だろう」と言っています。小説を書くにあたって、人間が大きいってどういうことだろうな、と考えるんですよ。たとえば人の話をよく聞く。受け答えは決して軽々しくない。ピュアで、人に対して寛容で、だけど正義は貫くみたいな。

尾﨑 幕末の志士たちは本当にピュアです。例えば、それほど知名度は高くありませんが吉村虎太郎。彼は土佐藩脱藩第一号なんです。庄屋としてそれなりに裕福な暮らしをしていたにもかかわらず、その地位を捨てて脱藩して散っていくわけです。江戸に黒船が来ようが来まいが、土佐は関係ない。ここで平和に暮らしていけたはずなのに、我が事と思って国事に奔走する人物がこの土佐の地からたくさん出ています。

笑顔がすてきな中岡慎太郎

中岡慎太郎。このさわやかな笑顔のウラには……。写真:中岡慎太郎館提供

 龍馬と一緒に暗殺された中岡慎太郎も庄屋の出身でしたよね。

尾﨑 そうです。高知県の名産品に「柚子」がありますが、柚子の栽培を奨励したのが、庄屋見習い時代の中岡慎太郎だったんです。

『西郷どん!』のなかで、「土佐の男たちは顎(あご)が張っているのが特徴で笑顔がとてもよい」と書きました。あれは中岡慎太郎がモデルなんです。とてもいい笑顔の写真が残っているでしょう。あの笑顔を見ていると、特攻隊の人たちが出撃を前に撮った写真を思い出すんです。死が迫ってるなかで、青春の輝きを切り取ったみたいな笑顔だなあと。そうしたら、さきほど知事からショックなことをうかがって……。実は、横に芸者さんが一緒に写っているとか。

尾﨑 私のイメージでは、中岡慎太郎はもう一枚のにらみつけるような、いかめしい顔の印象なんです。ですから、あの笑顔を見ると、実は人間らしい、いい人だったんだなあって感じがしますけどね。たぶん同じときに撮っているはずですから、女性と一緒ににやけて写ったのがちょっと気恥ずかしくて、てれ隠しで怖い顔で撮ったんじゃないかと、私は思うんですけどね。

中岡慎太郎は、わずか29歳と7カ月でその生涯に幕を閉じた。写真:中岡慎太郎館提供

2017.11.09(木)
文=秋月康
撮影=釜谷洋史