だれがいちばんモテ男?
林 私が抱いていた中岡慎太郎のイメージが一気に崩れてしまって(笑)。
尾﨑 きっと女性に優しかったんですよ。
林 幕末の志士たちって、みんな女性にモテますよね。オーラというとちょっと安易な言い方ですけども、やっぱり体を張っている人独特の情熱や、そういう凄味みたいなのがあったんでしょうね。
尾﨑 たしかにおっしゃる通り、幕末維新の志士たちというのはけっしてお金を持ってるわけでもないし、地位もない。今でこそ坂本龍馬、中岡慎太郎といったら、すごい人だなあと思いますけど、当時の人から見れば過激派ですよね。それでもモテたわけですからね。
林 長州がいちばんモテたみたいですね、京都では。薩摩はケチだからイヤという、女性たちの印象だったみたい(笑)。でも、坂本龍馬にしても、パトロンがいっぱいいるわけじゃないですか。彼のすごいところは、お金を自分のところに貯めておかない。右から左に流していくんです。それがあの時代の人たちのすごいとこですよね。もちろん貯めた人もいるかもしれないけども、国のためにということで、もらったお金は武器とか船に変えてしまう。あの潔さってすごいなと思います。
尾﨑 天下国家のために命を投げ出してもいいという情熱、私心のないところが魅力ですね。「志」って何だろう、「自らの志をたてる」ってどういうことだろう。そういうことを幕末維新博でみなさんに感じてほしいと思っています。
地方が元気でなければ
日本は立ち行かない!
林 明治維新は薩摩と長州が成し遂げたというのが、前面に出てしまいがちですけども、実は違うんですよ。土佐が果たした役割って非常に大きいんです。薩長連合や大政奉還でも、坂本龍馬が非常に活躍したけども、あと一歩というところで殺されてしまいましたからね。
尾﨑 悔しいですね。でも、幕末期に学ぶことは多いと思います。一つは、当時は幕藩体制がだめになっても、薩長土肥という新しい代替案、オールタナティブがあった。日本はそういう多様性を持ってないと、いざというときに強靭さを発揮できない。それを明確に示したのがあの時期だったと思います、やはり地方は強くないといけない。そういう多様性があるからこそ、強靱な国家でいられるんだろうなと思いますね。
林 薩摩藩には「郷中教育」という独特の人材育成法がありましたが、やっぱり大切なのは人材ですよね。いま地方では、優秀な人材が東京に出て行ったっきり、戻ってこないということが多いでしょ。
尾﨑 そうなんです。地方創生で大事なことは、地方から中央へというこの人材の流れを、いかに逆向きにできるかなんです。単に移住促進じゃなくて、やっぱり人材を得たい。帰ってきてもらいたい。そういう思いは強いですね。
林 実はわたくしの母がこの間、百一歳で亡くなったんです。それを思うと、百五十年前ってそんな昔じゃないんですよね。幕末を生きた人たちのメンタリティーは近代人のもの。そういう意味では私たちそのものなんです。
尾﨑 だからこそ、幕末を舞台にした本もドラマも面白い。大河ドラマ、いまから楽しみにしています。
林真理子(はやし まりこ)
1986年「最終便に間に合えば」「京都まで」で直木賞受賞。小説、エッセイの両分野で活躍する。NHK大河ドラマ原作の『西郷どん!』が好評発売中。
尾﨑正直(おざき まさなお)
高知県高知市生まれ。東京大学経済学部卒業後、財務省を経て、2007年、40歳で高知県知事に初当選。現在3期目を務める。
高知は「美味しい!」
プライベートでも何度も高知に足を運んでいるという林真理子さん。「こちらで本場のカツオのたたきをいただいてから、東京のスーパーで売っているのが食べられなくなったんですよね」と笑う。お昼はなじみの老舗料亭「濱長」で、龍馬が子どもの頃泳いでいたという鏡川を眺めながら、「濱長花神楽祝重ね」に舌鼓。じゃらん宿泊旅行調査2017でも、高知県は「地元ならではのおいしい食べ物が多かった」部門で、47都道府県中、堂々の第1位に輝いている。「歴史や文化だけじゃなく、美しい自然とおいしい食べ物が高知の魅力」と、林さんも太鼓判。
幕末維新博で
“本物”に出会う感動を
今回、対談の会場になったのは、今年3月にオープンしたばかりの高知県立高知城歴史博物館。林さんは尾﨑県知事の案内で、新発見の龍馬直筆の手紙など、貴重な資料を熱心に見て回った。高知県では大政奉還150年&明治維新150年を記念して、平成31年3月31日(予定)まで「志国高知 幕末維新博」を開催している。そのメイン会場がこの高知城歴史博物館だ。土佐藩主・山内家に伝わる貴重な品々をはじめ、土佐藩・高知県ゆかりの歴史資料や美術工芸品を展示している。“本物”の魅力や迫力に触れながら、土佐が生んだ偉人たちの息吹を感じる。そんな旅にあなたもぜひ。
志国高知 幕末維新博
開催期間 第1幕 2017年3月4日~2018年4月20日
第2幕 2018年4月21日~2019年3月31日(予定)
メイン会場は「高知城歴史博物館」と「坂本龍馬記念館(平成30年4月21日、グランドオープン)」。サブ会場は「こうち旅広場」。それに加えて、幕末維新の志士たちゆかりの歴史文化施設など県内各地の地域会場で、さまざまな企画展、イベントが展開される。
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2017.11.09(木)
文=秋月康
撮影=釜谷洋史