SNSで大人気の青くてフワフワしたキャラクター、パペットスンスン。愛くるしさと得体の知れなさを兼ね備えたスンスンから縦横無尽に繰り出される、あまりにシュールなボケの正体とは――?
気鋭の言語学者・川添愛さんが日常に飛び交う会話を様々な角度から分析し、「言葉のセンス」を探求する言語学エッセイ連載第4回です!
いくら「言葉のセンスがある」と言っても、口を開くたびに聞く者を唸らせるほどの人材はそういない。しかしここ一年ほど、そういった希有な存在に圧倒され続けている。その名は「パペットスンスン」。ネットやめざましテレビとかでよく見る、あの青くてフワフワしたキャラクターだ。年齢は(おそらく "永遠の")6歳で、パペットの国トゥーホックというところに住んでいるらしい。
私がスンスンを初めて見たのは、ネットでたまたま見かけた「ぼうえんきょう」という短い動画でのことだった。この動画では、スンスンが親友のノンノンに「紙を丸めて望遠鏡を作ったの~」と話しかけ、本当に紙を丸めて作っただけの望遠鏡を手渡す。望遠鏡を覗いて自分を見るノンノンに、スンスンは「回すと大きく見えるよ」と言う。ノンノンが望遠鏡を回すと、スンスンが少しずつ大きく見えてくる。しかしそれは、スンスンが望遠鏡に近づいているからなのであった。ノンノンの「ほんとだ、おっきく見える」というコメントで動画は終わる。
見終わった私の喉から、変な笑い声が出た。動画を見たことがない人は、もしかすると上の説明を読んで「スンスンはノンノンをだまそうとしているのかな」とか、「スンスンはノンノンに夢を与えようとしてるのかな」などと考えるかもしれない。しかし少なくとも私が見るかぎり、スンスンは本当に「何も考えずに」ノンノンに近づいていた。マジで何を考えているか分からない得体の知れなさと、それを補ってあまりある可愛らしさに、ただ笑うしかなかった。
一連の動画作品におけるスンスンの立ち位置は主に「ボケ」だ。ボケにもいろいろな種類があるが、スンスンの場合、話している相手との「共通の理解」を無視したボケが目立つ。
ここで言う共通の理解とは、会話をスムーズに成立させるために、話し手と聞き手が共有している知識のことを指す。私たちは会話をするときに、相手が何をどれくらい知っているか、自分と相手が互いのことをどれほど理解しているかなどを考えながら、適切な表現を選んで話している。
たとえば、そこにいない第三者(○○さん)のことを話すときに、相手がその人のことを知らなそうだったら「○○という人がいてね、こないだその人が……」という言い方をした方が親切だが、もし相手もその人をよく知っているという確信があれば「こないだ○○がさぁ」のような切り出し方ができる。また、もし自分の知らない誰かについて相手が「こないだ○○がさぁ」と話し始めたら、「○○っていう知り合いがいるんだな」と自分の知識をこっそり更新したり、あるいは「○○って誰?」と聞き返して「自分はその人を知らない」ことを相手に知らせたりする。そうやって、その場で「共通の理解」を調整するわけだ。意識しているか否かにかかわらず、私たちはそういう繊細な作業をしている。
で、パペットスンスンはどうかというと、話している相手との間で共通の理解を構築せずに暴走したり、共通の理解があるように見せかけて後からぶち壊したりするケースが散見される。
まずはライトな例から見ていこう。「AとBのどちらか」という質問に対する返答についてだ。
カルチャー動画メディア「McGuffin」とのコラボシリーズに「パペットスンスンのお悩み相談室」というのがあり、McGuffinのスタッフさん(スンスンが呼ぶところの「おじさん」)とスンスンとの掛け合いが楽しめる。その「#8 ピザのトッピングのおすすめは?」という動画の中で、おじさんがスンスンに「スンスンは、モッチリしてるピザが好き? パリッとしてるピザが好き?」と訊ねる場面がある。ここでスンスンはためらうことなく「べちょっとしてるピザが好き!」と答える。
「AとBのどっち?」という二択の質問をするとき、質問する側は「この二つのどちらかに正解があるはずだ」と考えている。もしこの予想が間違っている場合、質問された側は「どちらでもないよ」と明言することで相手の思い込みをリセットするなどして、共通の理解を調整することが多い。しかしスンスンはその手間をすっ飛ばして「べちょっとしてるピザ」と、選択肢にないことを平気で答えている。
まあ、これぐらいの「二択破り」なら、普通の人でもやるかもしれない。しかしYouTube公式チャンネルの「パンとごはん」では、「AとBのどちらか」という問いに対して、さらに常軌を逸した振る舞いが見られる。
文=川添 愛 イラスト=Akimi Kawakami
