「君の言う通り昨日だよ」
首のない男の子に話しかけられた。そんな強烈な体験の記憶が途中でバッサリと途切れることなどあるのだろうか。一体、N先輩は何を思い出そうとしているのだろう。それは本当に“思い出した方が良いこと”なのだろうか――必死に後輩たちを盛り上げながらも、Sさんの脳裏にはじわじわと疑問が広がっていました。
ガタッ!
突然、N先輩が立ち上がりました。
「ど、どうしたんですか……?」
まるで自分が飲み会に来ていることを今思い出したかのような表情でボーッとしているN先輩は「トイレ行ってくるわ」とぼそりと呟いて歩いて行ってしまったそうです。
彼がいなくなったことで一同は口々に、N先輩がまともな状態ではないのではないか、自分たちに一体今何ができるのかなど、溜め込んでいた不安をコソコソと漏らし始めました。
「でも、別に一次会の時からそんな飲んでなかったよな?」
「はい……。酔っておかしくなったとかそういう感じじゃないですよね、あれ」
「というか、私ずっと隣だったからわかったんですけど、先輩の服めっちゃ埃で汚れているんですよ。特に背中側とか。それになんか汗臭いというか、忘年会なのにお風呂とか入って来なかったんですかね……」
「気を病んじゃうとお風呂とか入れなくなるって聞くし、ちょっと心配だよな」
「そういうことなんですかね……。あの、こんなこと言うと私も変かと思われるかもしれないんですけど、先輩の話聞いていると、私どうにも――」
気がつくと、トイレから戻っていたN先輩が一同の座るボックス席のそばに立っていました。
「昨日だよ」
「え」
「君の言う通り昨日だよ、お寺行ってきたの」










