「……あるよ」
「いや、ないなら全然いいっすよ! というか、Nさんも何か飲みますか?」
話題を変えようと先走ってSさんが口を挟んだにも関わらず、何かを思い出そうとしているような表情のN先輩はふとこう言ったのです。
「……あるよ。俺さお寺とか回るのが好きでさ、そのときの話なんだけど」
大方無愛想にスルーされると思っていたため一同は驚いたそうですが、素性のろくにわからなかった先輩の趣味から続く怖い話が一体どんな内容なのか、皆一様に興味を惹かれていました。
N先輩はその日、自分のバイクに乗ってツーリングに出かけていたのだそうです。
目的はもちろんお寺。
何のためにお寺を回ったのかは語ってくれませんでしたが、代わりにお寺を訪ねるタイミングに関してはやたらと熱っぽく語ってくるのが奇妙でした。
「お寺ってさ、昼はダメなんだよ。参拝客もそうだけど住職が結構厳しく監視しているからさ」
「監視って、拝みに行くんじゃないんすか……?」
N先輩は睨むでも見つめるでもないジトっとした一瞥をSさんに投げると、彼を無視して話を振った後輩女子に向かって続きを語り始めました。
「行くのは夜な。人もいないし。ああ、別に鍵こじ開けたりはしないよ。お墓を見て回るだけ。まあ、入れないときは遠くから見ることになっちゃうときもあるけど、それはそれで好きだからさ」










