「N先輩はなんか怖い話ないんですか?」
「怖~……」
「ね! ヤバイですよね、この話!」
「皆、結構怖い話知ってんだなぁ~……」
「……もう飲み物大丈夫?」
「あ、じゃあ貰っちゃいます。カシオレで大丈夫です!」
「俺はもう少し食べちゃおっかなぁ~」
かなり盛り上がったものの、流石にあらかた語り終えて話の流れが途切れたタイミングがありました。
ふと、後輩の女の子が口を開きました。
「そう言えば、N先輩はなんか怖い話ないんですか?」
誰も彼に話を振らなかったことを気にかけてくれたのでしょう。
しかし、彼女が声をかけたN先輩という人は、Sさんの大学のOBでありながらインカレサークルに度々顔を出す、ちょっと距離感の掴みにくい人で、正直、何を話したら良いのかわからず、N先輩自身も口数が少ないのとあいまって、皆彼の存在をもてあまし気味でした。
一年の最後ということもあり、その日は皆それなりにめかし込んで参加していたにも関わらず、首元がだらりと伸びきった、言葉を選ばずに言えば小汚い服装で来ていたN先輩。この二次会だって誰が誘うでもなくぼんやりとついてきたこともあって、皆なんとなく話を振らないでいたのです。
「え、俺?」
妙に湿り気とおびた長い前髪とうつむきがちの姿勢で見えなかったN先輩の視線が、スゥッと前を向きました。










