ヒットさせるには必ず新しい要素が必要

渡辺 それと並行して、何の取り柄もなかった小学校の時から本だけは大好きで、いろいろと濫読してたんですよね。そして、ミュージカル映画に触れることによって、物語を得た音楽が、どれだけ豊かに聞こえるのかを痛感させられたんです。

近田 音楽と物語、二つのアートフォームへの関心が結びついたんだ。

渡辺 恐らく、もともと音楽は好きだったんだけど、音楽は家業だから、自分の中でその気持ちを封印してたんですね。それを、ようやく認められるようになった。

近田 大学卒業後、ミュージカルの制作を手がけるに当たっては、お父さんに何か相談したりなんかしたわけ?

渡辺 近田さんに音楽監督をお願いした『3 Guys Naked From The Waist Down』の前に、もう一本、翻訳ミュージカルをやってるんですが、その時、父は私のことを認めてくれなかったんです。

近田 具体的にはどんなことを言われたの?

渡辺 まず、物事をヒットさせるには、これまで誰もやっていない新しい要素を入れなければいけないってことを強調されました。

近田 さすがだねえ。

渡辺 そして、ブロードウェイミュージカルをもっと輸入したいとか、それを勉強していずれはオリジナルのミュージカルにつなげたいとか訴えても、「お前の言ってることは正論だけど、正論だけでは通らない。誰も正論には乗らないんだ」と返された。

近田 厳しいねえ。

渡辺 それで、私なりにいろいろとアイデアを練ったんですよ。ブロードウェイには「バッカーズ・オーディション」という仕組みがある。出資者たちに企画のプレゼンを行って製作費を調達し、利益を還元するというもの。向こうでは、ミュージカルも立派な投資の対象なんですよ。

近田 クラウドファンディングの先駆けみたいな趣があるね。

渡辺 ええ。そのミュージカルの製作費は550万円だったので、ブロードウェイに比べたらずいぶん小規模なんですが、一口を10万円として55口に分け、バッカーズ・オーディションを立ち上げるという提案を行ったら、父は感心してくれました。「それはいい。今まで誰もやったことがないから、宣伝のネタにもなる」って。

近田 褒めるときはちゃんと褒めてくれるんだ。

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