笑っているように見える

 2018年3月、白浜特有の浜風が強く吹いていた日。パンダラブ(パンダたちが暮らした施設)の屋外運動場。寝転んだ結浜はひんやりとした風を受けながら、竹を両手につかんで食べていた。春といえども肌寒かったが、パンダは寒い方が得意だから、心地良さそうだった。動画でバズるようなドラマや微笑ましいアクシデントやイタズラが起きるわけではない。ひたすら心地良さそうに竹を食べ続ける結浜を撮影することができた。

 幸せそうで美味しそうで満足そうで、見ようによっては笑いながら食べているような姿をずっと眺めていた。アドベンチャーワールドのパンダ界隈ではとくにお転婆で知られる結浜。しかし、美味しい竹と居心地の良い空気の中では、のんびり寝転んでいるだけだった。それがとても可愛くて、最高だった。美味しいときは、目をつぶって食べる傾向にある。それが笑っているように見える。以前にスタッフから聞いたそんな言葉を思い出す。

 わたしが本の制作のために初めてアドベンチャーワールドで撮影したのは2016年9月だった。そのときは、7頭のジャイアントパンダがグラビアを飾った。永明と良浜と彼らの子どもたち。海浜と陽浜の双子の兄妹と優浜。桜浜と桃浜の双子の姉妹。そして、生まれたばかりの結浜だった。上野動物園でシャンシャンが誕生する10カ月前のことだ。拙著が書店に並ぶ頃、双子の兄妹と優浜の3頭は中国へと旅立っていった。それから、彩浜や楓浜が生まれて、アドベンチャーワールドのジャイアントパンダに夢中になり、撮影を続けてきた。振り返って見ると、その撮影はすべて結浜の人生とリンクしていたんだと思う。

 結浜が生まれたときに正式な許可がおりて取材・撮影がスタートし、そして、これまでに世界中でさまざまなことが起きたが、わたしがパンダの本をつくるときには、必ず成長している結浜の写真があった。だから、結浜の誕生日は、自分にとっても特別な記念日のようであり、ラッキーナンバーでもあった。2025年9月18日。そんな結浜が初めて(アドベンチャーワールドではなく)中国で迎えた誕生日。その成長を祝い明るい未来を願いながら、今、テキストをパンチしている。

 遠く離れてしまったが、これまでに撮影した膨大な結浜の写真を見れば、いろいろな思い出が鮮明に甦ってくる。それは、わたしがパンダとアドベンチャーワールドからいただいたギフトだ。だから、それをより多くの人に伝えること(見せること)が大切だと思ってきた。今回はコラムとして、そういう機会をいただいたのだが、実はこれも結浜のラッキーチャームによるものなんだろうとひそかに思っている。

*パンダは正式にはジャイアントパンダと呼びます。このコラムでは、日々、筆者がそう呼んでいるパンダと書いています。

アドベンチャーワールド

所在地 和歌山県西牟婁郡白浜町堅田2399
電話番号 0570-06-4481(ナビダイヤル)
営業時間 10:00~17:00 ※季節により異なる
https://www.aws-s.com/

Column

アドベンチャーワールドから旅立ったパンダ

アドベンチャーワールドから、良浜(らうひん)、結浜(ゆいひん)、彩浜(さいひん)、楓浜(ふうひん)が旅立ってから数カ月が経ちました。パンダたちの旅立ちが決まってから、飼育スタッフが抱いた気持ちとは? また当日の様子はどのようなものだったのか。そして、広報スタッフが明かす、永明と良浜の裏バナシやアドベンチャーワールドの“これから”などについても伺いました。取材・執筆は、ただひたすらにかわいい、パンダを集めたパンダグラビア本『HELLO PANDA』の著者である小澤千一朗さんです。