――そういうときはどのようにお気持ちを立て直されたのですか?

上大岡 もう、ネタだと思うようにしました。本書の担当編集さんも私も、子育てのときからつらい経験はすべてネタにしてきたので、介護もそれで乗り切れるだろうという見通しがありました。

 ただ、姉の了承を得てからにしようと思って、「家族のことをマンガに描くけどいい?」と聞いたんです。すると、「一生懸命やってくれたのだから、どんどんネタにしてお金を稼いでちょうだい」と笑って言ってくれて、すごく気が楽になりました。

在宅介護中、最もストレスがかかった2か月

――老人ホームへの入居にあたり、お父さまの説得が大変だったそうですね。本書では「在宅介護中、最もストレスがかかった2か月」と振り返っていました。

上大岡 高齢者施設のコーディネートを行っている会社に、予算などの条件に沿って、すぐに入居可能な「介護付き有料老人ホーム」の候補を出してもらって施設見学や入居の準備を進めていきました。幸運にも、条件に合う施設が横浜市内で見つかったのですが、問題はいつ両親に切り出すか。

 まずは母に提案すると、すぐに賛同してくれました。父は案の定、断固拒否の姿勢でしたが、老人ホームのケアマネさんがうまく父の心をほぐしてくれて、なんとか納得してもらうことができたのですが……。

――拝読して、ケアマネさんの説得の巧みさに驚きました。

上大岡 そうやってせっかく説得してもらっても、父は認知症ですぐ忘れてしまうので、また「絶対行かない!」と言い出して振り出しに戻るような感じだったんです。ケアマネさんから「毎日毎日説得してください」と言われたので、もうご真言を唱えるように説得を重ねました。感情を抜きにして、これも修行だと思って(苦笑)。

実家の片付けにも一苦労

――ご両親の老人ホーム入居が決まり、ご実家を空にされた後はどのようなお気持ちでしたか。

上大岡 まずは両親が「プロの手にわたったんだ」と安心しました。ようやく肩の荷が下りたことを覚えています。横浜の実家に行くと、雨戸が閉め切られていて、捨てられないものたちが雑然と置かれていました。そんな部屋の窓を開け払って、不要なものを全部捨てられると思うと、心からホッとしました。

 両親が老人ホームに入居する前から片付けを始めていたのですが、母に「何もしなくていいから、要る・要らないだけを言ってね」とお願いすると、それだけでも疲れて寝込んでしまうんですよ。たとえば、「このスプーンってまだ使う?」という些細なことでも、判断することにものすごくエネルギーを使うんです。だからどんどんものが溜まるし、体力が衰えると物理的にものを動かすのも難しくなってしまう。

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