キャラクターが勝手に動き出す
綿矢: 結珠と果遠は、ふたりとも「相手に幸せになってほしい」という気持ちを強く持っていますよね。相手を欲するより、相手の幸せを願いながら時間が過ぎていく。たとえば、高校で久しぶりに再会した果遠がすごく綺麗になっていたときも、結珠はその変化を複雑な気持ちで受け止めています。私が女性同士の恋愛を書く場合、相手の見た目が良くなったら主人公がドキドキしてときめく、という風に書きがちだったので、そうではない友達的な視線が心地よかったです。この絶妙な距離感は、どのように作っていきましたか?
一穂: 書いているときはあまり考えず、赴くままにという感じです。キャラクターが勝手に動き出すのを、私が後ろから見て書き写している状態が理想だと思っています。登場人物を頭の中で遊ばせておくと、私が思ってもみなかったことをし始めたりして。
綿矢: 私もそのタイプなので、すごくわかります! でも「主人公が勝手に喋り出す」とか言うと、なんだか神がかった感じを狙って言っているように見えてしまって恥ずかしいのですが……。
一穂: 「天才タイプですね!」みたいに言われて、「違う、違う!」ってなりますよね(笑)。
綿矢: 著者の欲望として「この人にはこういう服を着てほしい」とか「こんなことをしてほしい」とか、ちょっとしたクエストを与えたら、あとはキャラクターに勝手に進んでもらうのを後ろから「ムフフ……」と見ているような感じですよね。一穂さんは執筆中に結珠と果遠のどちらかに感情移入することはありましたか?
一穂: いえ、基本的には誰にも感情移入せず、遠い親戚くらいの距離感で見ています。「ああ、良かったね」とか、「それはひどいなぁ」とか思いながら。
綿矢: そうなんですか、私はすごく感情移入してしまうんですよね。『光のとこにいてね』を読んでいても、再会した果遠の顔が目に浮かぶくらい。多分、作者の一穂さんより今、私の方が彼女たちと距離が近いと思います(笑)。
