◆「埼玉政財界人チャリティ歌謡祭」を観る
こちらは、1992年の開始以来、テレビ埼玉において毎年元日の夜7時からゴールデンタイムの3時間を費やして放送が続けられている番組である(テレ玉という愛称にはどうにもなじめない。かつてのハマラジのように)。まあ、タイトルがすべてを言い表しているのだが、つまりは落語の「寝床」だ。
埼玉の奇祭との異名を取るこのイベントでは、埼玉県知事、さいたま市長、各自治体の議員、そして県内有力企業の社長連が、大宮ソニックシティを舞台に自慢の喉を披露する。
前回の曲目を少し挙げてみると、北本市長によるサザンオールスターズの「太陽は罪な奴」、松伏町長による三波春夫「東京五輪音頭」、東京ガス埼玉支社長による森進一の「冬のリヴィエラ」、蓮田病院理事長によるFUNKY MONKEY BABYSの「あとひとつ」……。
これ以上の情報に関しては、好事家の同志たちによってネットにまとめられた詳細なまとめ記事を参照してほしい。「埼玉政財界人チャリティ歌謡祭」というキーワードで検索を行うだけで、年末年始の帰省における手持ち無沙汰な時間はあっという間に満たされていくはずだ。さっき小田原を過ぎたばかりなのにもう三河安城? そんなミラクルが起こっても不思議ではない。
こういう視聴者置いてきぼりな番組、昔はよく放送されていた。キー局においても、例えば年末の「11PM」では、国会議員や大手企業のオーナー社長、そして大物文化人がいい湯加減の表情を湛えながら、フルバンドをバックにお気に入りの曲を歌う特番が組まれていたものだ。
今思えば、ナベツネあたりからのトップダウンで押し付けられていた企画なのだろうと何の根拠もなしに類推するが、いかにも昭和的な番組であった。平成も28年を迎えようとする今、ユニクロの柳井社長とか菅官房長官とかが十八番を歌い上げる番組はちょっと想像もつかない。あったら観たいが。
とにかく、毎年元日、俺はこの「埼玉政財界人チャリティ歌謡祭」を観るそのためだけに、浦和または大宮のビジネスホテルに投宿している。2016年の蓮田病院理事長はどんな扮装でどんな曲を歌うのか、今の俺の興味は、そこに99%が割かれている。何でもいいから、とにかく一刻でも早く年が明けてほしい。
●冬休みに観たい映画〈103〉
『ナッシュビル』
監督:ロバート・アルトマン/出演:リリー・トムリン、キース・キャラダイン、カレン・ブラック/1975年 アメリカ/DVD/1,429円/発売元:パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン
大統領選候補者の遊説キャンペーンのため、アメリカの音楽の都のひとつであるテネシー州ナッシュビルに集ったミュージシャンたちを描いた群像劇。多彩なキャラクターを自在に描き分ける名匠ロバート・アルトマンの手腕を思う存分堪能することができる一作。埼玉政財界人チャリティ歌謡祭も、ぜひアルトマン監督に映画化してほしかった。しかし彼は2006年にこの世を去ってしまった。R.I.P.
ヤング(やんぐ)
CREA WEB編集室メンバー。好きなアーティストはICONIQ。
Column
CREA WEB編集室だより
このコラムでは、CREA WEB編集室の日常を彩るよしなしごとを報告しつつ、CREAおよびCREA Travellerのプロモーションに励んでいきます。紀尾井町から、さわやかな風をあなたに。
2015.12.28(月)
文・撮影=ヤング