もち米をつかったマレーシア版おはぎ

 同じ2層のお菓子で「クエ・セリ・ムカ」も人気です。こちらは、もち米をつかっていて、まさにマレーシア版おはぎ。餡子のかわりにのっているのは、ココナッツクリームです。

「クエ・スリ・ムカ」。モスグリーン色はココナッツクリームにパンダンの葉で色をつけたもの。青色はブンガ・トゥランの花びらの色。こちらも「ニョニャ・カラーズ」にて購入。

 そしてこちら、ビビッドな色合いで、ひときわ目を惹く「アンクー・クエ」。

左:マラッカ、ニョニャ料理の名店「ナンシーズキッチン」のアンクー・クエ。ひとつひとつ手作りしているため、1日にわずかしか販売していない。
右:サラワク州クチンのカフェにて。おじさんに指さしでオーダーすれば、テーブルまで持ってきてくれる。華人が多いお店のため、縁起のいい紅色のクエがどんどん売れていた。

 「アンクー・クエ」は、亀の甲羅を象ったおめでたい餅菓子。亀が象徴する長寿と繁栄を願って、赤ちゃんの1カ月のお祝いなど祭事のときによく食べます。緑豆餡やココナッツ餡入りで、外側の色によって、中に入っている餡の種類を見分けることができます。

夜市で手作りの「クエ」を販売している女性。ひとつひとつ丁寧に手作りされた新鮮なお菓子はとてもおいしい。

 マレーシアでは、市場や路上の屋台で、手作りの「クエ」をたくさん広げて商売している人をよく見かけます。「クエ」は、手間がかかるうえに日持ちのしない生菓子ですから、大量生産と長期保存が必要な大きな店舗での提供は難しい。その点、屋台のお菓子売りなら、少量での生産が可能で、売り切ってしまえば店じまい、という気軽さ。生産者からの直販なので、手頃な値段で提供することもできます。

 市場に遊びにきた家族連れが屋台でおいしい「クエ」を買い、子供は小さな頃からその味を覚え、そして自分が大人になると、今度は子供に伝えていく。マレーシアの伝統菓子が今もなお人々に愛されている理由は、こういった屋台文化にあるのです。

 日本の和菓子も、こんなふうに気軽に味わえるようになるといいな。どこかのおばあちゃんが作った和菓子を直接買えるといいな。マレーシアで“クエ”を食べると、最近めっきり食べる機会が少なくなった和菓子を思い出します。それは“クエ”が、わたしが幼い頃に食べていた和菓子の味に似ているからなのかもしれません。

日本でも「クエ・タラム」を提供しているレストランがあります!

マレーアジアンクイジーン(東京都渋谷区渋谷) ※5月末までは通常メニュー。それ以降は要予約
URL http://www.malayasiancuisine.com/

マレーカンポン(東京都中央区八丁堀) ※要予約
URL http://www.malaykampung.com/

マレーシアごはんの会 古川 音(ふるかわ おと)
「マレーシアごはんの会」にて、マレーシア料理店とコラボしたイベント、マレーシア人シェフに習う料理教室を企画・開催。クアラルンプールに4年滞在した経験をもち、『ニッポンの評判』(新潮新書)のマレーシア編を執筆。マレーシアごはんの会の活動のほか、情報サイト「All About」でのマレーシアライター、食文化講演も担当している。
オフィシャルサイト http://www.malaysiafoodnet.com/

Column

マレーシアごはん偏愛主義!

現地で食べたごはんのおいしさに胸をうたれ、風土と歴史が育んだ食文化のとりことなった女性ふたりによる熱烈レポート。食べた人みんなを笑顔にする、マレーシアごはんのめくるめく世界をたっぷりご堪能ください。

2015.05.15(金)
文=古川 音
撮影=古川 音、三浦奈穂子