マレー半島とボルネオ島北部にまたがる常夏の国、マレーシア。実はこの国、知る人ぞ知る美食の国なのです。そこでこの連載では、マレーシアの“おいしいごはん”のとりこになった人たちが集う「マレーシアごはんの会」より、おいしいマレーシア情報をお届け。多様な文化が融け合い、食べた人みんなを笑顔にする、とっておきのマレーシアごはんに出会えますよ。
マレーシアの黒い美食。中華鍋で豪快に炒める「ホッケンミー」
見ための地味度100%。ここで紹介するのにアレですが、あんまりおいしそうに見えない(!?)真っ黒い麺。おそらく初めて見た人はオーダーするのをためらうかもしれませんが、マレーシア料理のおいしさは、じつは見た目とはまったく関係がないのです!
おいしく見えない料理ほど、おいしい(深い……!!)。
地元で大人気の屋台の定番麺料理。それが今回紹介する「ホッケンミー」です。ホッケンミーは漢字で書くと「福建麺」。福建省出身の調理人が作り始めたもので、スープ麺がオリジナルだそう。常夏のマレーシアで進化を遂げ、このタイプになりました。
しょっぱさゼロ。真っ黒な見た目からは決して想像できない、まろやかなコク。これはラードを使って炒めているためで、さらにお店によっては、隠し味でイカのワタを加えていることも。肉の旨みと海の香りがぷんぷんに漂う、こだわりの麺料理なのです。
うどんそっくりの中太の小麦麺は、コシと弾力があり日本人好みの食感。海老、豚肉、キャベツ、カリカリに揚げた豚の脂身などが入っていますが、これらの具はあくまでも麺の引き立て役。オイスターソースベースのタレで焼き上げた麺は香ばしくて濃厚。噛みしめるごとに豚の脂がじゅわっと口の中で広がり、あとをひく! これがクアラルンプールで食べられている黒・ホッケンミーの魅力なのです。
何度も言うようですが、とにかく黒いこの麺。実は、これには理由があるのです。マレーシア人(とくに中国系)は、この黒い見た目が好き。正確に表現するならば“艶のあるピカピカした黒”が食欲をそそる色で、調理人は色付けのために中国醤油を加え、あえて黒く仕上げているのです。たとえばバクテーや、お肉を煮込んだビーフレンダンも黒さが際立つ料理で、マレーシア料理が全体的に色の濃い料理が多いのは、このようなマレーシア人の好みによるもの。
さて、同じ名前でも、場所が変われば料理も変わる。これ、マレーシア料理の鉄則です。2014年に、英国のガイドブック社「ロンリープラネット」が、世界でNo.1の美食の町に認定したペナン。この町でもホッケンミーは大人気です。ところが、ペナンで「ホッケンミーをください」と注文すると、なんと! 出てくる料理は黒ではなく赤なのです!
2015.04.02(木)
文=古川 音
写真=古川 音、三浦菜穂子