日本の監督に励まされ……ある独立映画に見る“未来”

 そうした韓国映画を取り巻く事情を象徴する作品として、ヨン・サンホ監督の『顔 -かお-』(2025年)を紹介したい。先日、ヨン・サンホ監督が宣伝のために来日したが、この『顔 -かお-』という映画は、『新感染 ファイナル・エクスプレス』を大ヒットさせたヨン・サンホ監督にとっては、大きな賭けであったという。韓国では同監督は、ブロックバスター映画を次々と作るヒットメーカーとして知られている。そんな彼が、ゾンビも幽霊も出ない人間ドラマを作るのは、“巨額な資金が投じられる”韓国では難しいことであった。

 ヨン・サンホ監督は、自身が脚本を手掛けるNetflixのドラマ『ガス人間』の監督を務めた片山慎三が、『岬の兄弟』(2019年)のような小規模の作品を撮っていることに励まされ、自分の撮りたい『顔 -かお-』を低予算で、投資に頼らず撮ってみようと決めたのだという。製作費もわずか2億4000万ウォン(約2,500万円)という超低予算。これで評価されなかったらどうしようかと、恐怖を覚えていたと語る。その後『顔 -かお-』は、韓国で観客動員数107万人、興行収入100億ウォン(約80億円)を超える異例のヒットを記録した。

 巨額を投じるK-クリーチャー映画の旗手として、ヨン・サンホ監督は今後もゾンビ映画を撮っていくことだろう。しかし、一方では今回の『顔 -かお-』の成功により、時折自分の作りたい作品を、独立映画として撮っていくのではないだろうか。筆者は『顔 -かお-』のような試みにこそ、韓国映画の未来を感じるのである。

映画界全体は国外IPビジネスの強化へ

 こうした大規模映画ではない作品のヒットが相次ぐ一方、韓国映画界全体に目を向けると、別の変化にも注目できる。韓国映画は今、再び海外に市場を求め始めているのだ。現在、世界的に「K-ゾンビ」や「K-クリーチャー」映画が注目され始めている。それは韓国映画がIP=知的財産で勝負をしようというシフトチェンジを始めたことを意味していると言っていいだろう。このような市場の転換も、中規模作品のヒットと並行して韓国映画の復活を後押ししていくと考えられるが、筆者はこうしたジャンルが注目され、投資が集まるだけでは、コロナ禍と同じことになるのではないかとも考えている。

 国外に市場を求めていた時代から、国内へと市場を変えて生まれたコロナ前のヒット。そしてコロナ禍や配信系への人材流出などの低迷期を経て、2026年の韓国映画は衰退から抜け出そうとしている。

 しかし、韓国の小規模映画、独立映画の状況はまだまだ厳しい。中規模作品や独立映画を撮る若手の監督たちがさらに活躍でき、かつ投資だけに頼らずに映画がヒットして「食っていける」場が整えば、また大ヒット作を生み出す監督たちが国外市場に目を向けつつも、自分が本当に作りたいと思える作品を規模に拘わらず作り続けられる環境が整えば、もっと韓国映画は面白くなるのではないだろうか。