韓国映画に復調の兆しが

 一番明るい話題は、2026年2月に公開となった『王と生きる男』が1692万人の動員を記録したことだろう。同作は韓国歴代3位の動員数を記録し、歴代興行収入トップに上り出た。この映画で主演をしているのが、ユ・へジンと、K-POPグループ「Wanna One」の元メンバーであるパク・ジフンである。

 特に、ユ・へジンは長らく韓国の名バイプレイヤーであった。彼が日本映画の『鍵泥棒のメソッド』をリメイクした『LUCK-KEY/ラッキー』(2016年)で単独で初主演したときも驚いたが、いまや韓国で最も動員力を持つ俳優になったのである。

 さらに『王と生きる男』以外にも、コメディの『世界で最後の愛しい娘!』(11月に日本公開決定)が500万人のスマッシュヒットを記録。これは、世界で最後のゾンビになってしまった娘を守るために父親が奮闘する物語で、『EXIT』や『エクストリーム・ジョブ』のような、企画のおもしろさで低予算でも楽しめるコメディのヒットが戻ってきたことを意味する。

 また、2026年のカンヌ国際映画祭には、ナ・ホンジンの『HOPE』(日本で2027年公開予定)がコンペティション部門に、ヨン・サンホの『コロニー/群体』(日本で2027年公開予定)がミッドナイト・スクリーニング部門に出品されるなど、元の韓国映画の活気を取り戻していることを感じることができた。さらに、つい先日にも、作家性の高い監督作品として、 イ・チャンドン監督の『もしもの愛』が、ヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞(審査員大賞)を受賞したばかりである。

ヒットしたら巨額の資金を……韓国映画界の構造

 こうした韓国映画復活の兆しを自分なりに考えると、新たな庶民派のスターとしてユ・ヘジンが躍り出たように、肩の力の抜けた中規模な娯楽作品を気軽に作れる、そしてそれらが注目される土壌が育まれたことが要因の一つにあるのではないだろうか。実際、『王と生きる男』の製作費は105億ウォン(約11億円)、損益分岐点は300万人程度。ユ・ヘジンの新作『暗殺者(たち)』が9月23日に公開となったが、こちらも製作費は190億ウォン(約21億円)程度で、公開4日目に100万人を突破。これは大ヒット作『ソウルの春』と同じペースである(※その後、『暗殺者(たち)』は右派により歴史歪曲ではないかとしてユ・ヘジンの自宅前でデモが行われる事態に発展したが、その後もボックスオフィス1位に返り咲いた)。

 実は、韓国では一度ヒット作を作ると、さらなるヒットを期待して巨大な出資が集まってしまうために、小さな作品を撮れないという事情がある。先述した2010年代の韓国映画の隆盛は、トレードオフで「ヒットしたテーマに巨額な資金を投じて量産する」映画の仕組みを加速させたともいえよう。

 一方で現在は、こうした“資本主義的な”映画の作り方に、世相を敏感にとらえる観客や、一部の映画人は懐疑を抱いている人もいる。コロナ禍や、配信プラットフォーム登場による韓国映画衰退を経て、観客の注目は資本主義に飲まれた大規模映画ではなく、小中規模作品や、そこに出演する俳優に向かうようになったのだ。こうした資本主義的な映画作りへの疑問の声は、筆者が取材を重ねるうえでも聞こえてきた。

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