ひとりきりの病室で眠れない夜

 加えて不運だったのが、緊急入院時に通された個室から大部屋に移ることを提案された際、他人がいるところで寝るのも嫌だと、つい『この部屋で大丈夫です』と言ってしまったことでした。

 結局のところ、孤独な時間を狭い部屋で過ごす以外に彼に道はなかったのです。

 その日の夜もAさんは少し開けたカーテンの隙間から、青白い月明かりをボーッと眺めていました。

「参ったなぁ、こりゃ……」

 妻が買ってきてくれたアイマスクや耳栓も試してみたのですが、眠れないものは何をしても眠れません。

 時間の感覚は曖昧になり、それが余計に眠りを妨げていく。

 無音の中で耳の中に響く、キーーーーーン……という耳鳴り。

 それは実際の耳鳴りなのか。はたまた、自分の頭の中で“耳鳴りの音”として想像しているだけのものなのか。

 誰もいない病棟端の小さな個室の静寂は、その答えをAさんから奪い去っていきました。

 カツ…………。

 不意に部屋の引き戸の向こうから、かすかな足音が聞こえたような気がしました。

 ベッドに横たわったまま、誰に見られているわけでもないのに寝たふりをしながら耳を澄ませてはみたものの、続くはずの足音は聞こえてきません。

 カリッ…………。

 今度は、自分のベッドの下で小さな物音がして体を小さく震わせてしまいましたが、やはり続く音は聞こえてきません。

「はぁ……」

 布団を被り直して深いため息をついたAさんは、自分の繊細さに初めて気付かされたそうです。

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