また寄ってみたい店を目指して
このエリアでもう一つ、大きな影響力を持つ客層は、外国人だ。近隣のホテルは、臨海副都心の観光スポットに加え、りんかい線で東京ディズニーリゾートへのアクセスがよいこともあって、外国人宿泊者が多い。相原さんによると、日によっては半日日本語で接客していないこともあるという。台湾、タイ、マレーシアなど主にアジア圏から来た、日本語を勉強中で話しかけてくる方、片言の英語で売り場を訊く方への接客のため、スマートフォンには翻訳ソフトを入れ、レジには中国語の指差しメモも置いている。
アニメ化作品の原作や高額なイラスト集などの他、無形文化遺産になった「和食」のレシピ本や寿司の写真集といったものに加えて、『星の王子さま』の日本語版が売られていた。買い求める外国人の中には、訪れたそれぞれの国で、現地語版を買って集めている方がいるとのこと。
旅行客やレジャー客が多い臨海副都心エリアだが、以前訪問した紀伊國屋書店横浜みなとみらい店と同じ悩みを抱えている。非日常のお出かけ先の本屋であって、日常的に通ってくれる常連さんが少ない。イベント連携やメディア化作品は爆発的に売れることもあるが、必ずしも安定しない。たまたま通りかかった方の目にとまるように、足を止めてもらい、一歩踏み入れて本を手に取ってもらえるようにいろいろ工夫をしている。
通路に面した一等地には、タレント本や映像化本のような瞬発力のある本を通路側に寄せて陳列するだけでなく、近隣のイベントスペース、東京カルチャーカルチャー(外部サイト)で行われるサブカルイベントの関連本コーナーを作ったり、最近注目の書評集団「HONZ」(外部サイト)の選書コーナーを作ったりして、「ここに来ると何か面白いものをやっている」と思わせる、厚みのある品揃えを目指している。
東京オリンピックの競技会場や選手村も建設が予定される東京湾岸は、ますます「ハレ」の場として発展していくことだろう。くまざわ書店アクアシティお台場店は、これからも「ハレ」の本屋としての存在感を増しながら、訪れた客にまた寄ってみようと思わせ、固定ファンを少しずつ増やしていくのではないだろうか。相原店長とお話ししていて、そんな近い未来を思い描いた。
【CREA WEB読者にオススメ】
相原聡子さんのオススメは、2014年6月に亡くなったダニエル・キイスさんのSF、脳手術によって超天才になってしまう青年を描いた『アルジャーノンに花束を』。一世を風靡した大ベストセラーで、映画化、ドラマ化もされている。ダニエル・キイスさんの追悼をきっかけに置いたところ、じわじわと売れており、継続して棚に積んでいる。
ミリオンセラー(百万冊)でも、日本人約一億人からすると1%、残りの99%は未読なのだ。かくいう私も『アルジャーノンに花束を』は未読、夏休みのうちにもう一度お台場に遊びに行って、くまざわ書店で買って帰ろう。
くまざわ書店アクアシティお台場店
所在地 東京都港区台場1-7-1 アクアシティお台場4階
営業時間 11:00~21:00
URL http://www.kumabook.net/
Twitter https://twitter.com/kbc_odaiba
小寺 律 (こでら りつ)
本と本屋さんと、お茶とお菓子(時々手作り)を愛する東京在住の会社員。天気がいい週末には自転車で本屋さん巡りをするのが趣味といえば趣味。読書は雑読派、好きな作家は、小川洋子さん、宮下奈都さん。
Column
週末の旅は本屋さん
新幹線や飛行機に乗らなくても、いとも簡単に未知のワンダーランドへと飛んでいける場所がある。それは書店。そこでは、素晴らしい知的興奮に満ちた体験があなたを待つ。さすらいの書店マニア・小寺律さんが、百花繚乱の個性を放つ注目の本屋さんへとナビゲートします!
2014.08.09(土)
文・撮影=小寺律