有楽町は不思議な町だ。銀座、日比谷、新橋、大手町、丸の内、八重洲といった個性がはっきりしたエリアに囲まれて、様々な顔を見せる。ガード下の昭和レトロな食堂と裏道のこじゃれたカフェが共存し、日本各地の地元食材がずらりと並ぶアンテナショップと巨大なファッションビルをはしごできる、おじさんにもガールズにも居場所のある町だ。
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まあ、おじさん的には、やはりガード下へ行ってみないとな、と、昭和レトロなあたりにチャレンジしてみた。『東京ヘタレメシ 有楽町ガード下グルメ』を片手に、「下戸でチキンハート」という著者のおざわゆきさんに共感をおぼえつつ、取材前なのでビールは自粛(下戸なのでどうせ飲めない)。カツカレーなどを食べてきた。
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有楽町は、本屋好きにとっても特別なエリアだ。若い女性をターゲットにした有楽町イトシアに入るTSUTAYA BOOK STORE 有楽町マルイ店、文芸書や文庫の大量陳列で文学賞のたびに注目される東京交通会館1、2階の三省堂書店有楽町店、まったく性格の違う書店が道路を挟んで向かい合っている。
新しいファッションビルの有楽町イトシアと昭和感満載の東京交通会館、女子力の高いTSUTAYA有楽町マルイ店と三省堂書店有楽町店を比較すると、後者はおじさんっぽさが際立ってしまうかも知れない。しかも、三省堂書店有楽町店の文芸担当者は、地元有楽町のご当地小説として『海賊とよばれた男』を推し、池井戸潤さんの企業エンターテイメント小説を積み、店舗ツイッター(外部サイト)では「俺」と自称して、作中に登場する天ぷら、もつ鍋、エスニック料理、スイーツを食べ歩く。だが、今回取材させていただいた有楽町店文芸担当の新井見枝香さんは、細身でどこにそんなに食欲が詰まっているんだろうという「女子」だった。
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三省堂書店有楽町店は、同チェーンの神保町本店や、近隣の八重洲ブックセンター本店(連載5回目『秘密の花園を探して』 )、丸善丸の内本店などの巨大書店と比べると、フロア規模も品揃えもそれほど大きくない。駅前の好立地ではあるが、ちょっと奥まっていて、さほど目立たない。が、これを売るぞ、と、なったときの瞬発力はすごい。この単行本は日本一売った、この文庫は千冊仕入れて売り切った、ということもまれではないらしい。ノーベル文学賞候補や本屋大賞、芥川賞・直木賞、映画・ドラマのヒットと、本が話題に上るたびに、この店でどーんと積み上げるシーンがテレビに登場する。取材時は文庫本だったが、半沢直樹シリーズで人気を集めた池井戸潤さんの『ルーズヴェルト・ゲーム』(講談社文庫)が展開されていた。
2014.03.29(土)
文・撮影=小寺律