感じたままに、好きなものを売る勇気
ツイッターでは驚異の食いしん坊ぶりを発揮している新井さんだが、POPもユニークだ。作品の中で登場するだんごの写真を使った『ノボさん』、ピザの画像を実物大に拡大して貼り付けた『舞台』、食品サンプルのステーキを使った『震える牛』、ほかにも凍らせたヤクルト、焼きそば、寿司……、食いしん坊っぷり炸裂の食べ物ネタ満載で、「この小説にどんなうまそうな食事が出てきたか」を、ストレートに伝えている。聞いてみると、実際そのシーンが心に残ったからという。ここは新井さんに激しく同意なのだが、食のシーンがおいしそうな小説はいい小説だ。小説の登場人物の生活が具体的に見えてきて、一気に身近に感じられる。どんなスーパースターであっても、食べる瞬間は、自分と同じ人間なのだ。
ほとんど有楽町店の伝統芸とも言える大量陳列だが、いくら返品が可能な出版物とはいえ、そう簡単なことではない。店の一番いい場所を空けて準備し、出版社との信頼関係で大量に仕入れる、売り切るまでは大量の在庫を抱え、本来なら売れていたはずの他の本を売り逃すことになる。こういう仕掛け本をどうやって決めているのか新井さんに聞いてみた。「選書は、他チェーンの先輩たちに教えられることも多いですね。ただ、これは行けると思ったら、自分の感覚を信じて仕掛けます。この作品を届けたいと思ったら、できることは何でもしたい」とのこと。
好きな本をたくさんの人に読んでほしい、自分の心が動いたシーンを読んでほしい、感じたままに、勇気をもって伝える、そのために仕入れ、POPを書き、陳列し、ディスプレイし、売る。その熱は必ず読者にも伝わっている。千冊の本は千人の読者を生み、千人の読者はそれぞれ、次の一冊に期待して今日も有楽町の駅を降りる。
【CREA WEB読者にオススメ】
新井見枝香さんのオススメ本は、少年アヤちゃんの『尼のような子』(祥伝社)。桃の節句、おんなの子の日に発売された少年アヤちゃんの自伝的小説のようなエッセイ。韓流スターにあこがれ、自己愛と妄想に苦しみ、もうどうにかなってしまいそうなアヤちゃん。「妹ならぎゅっと抱きしめたくなるような……。(アヤちゃんは)おとこの子だけど」、性別を超えてオススメしたい作品とのこと。
三省堂書店有楽町店
所在地 東京都千代田区有楽町2-10-1 東京交通会館 1・2階
営業時間 10:00~22:00、日・祝日 ~20:00
URL http://www.books-sanseido.co.jp/shop/yurakucho.html
Twitter https://twitter.com/yrakch_sanseido
小寺 律 (こでら りつ)
本と本屋さんと、お茶とお菓子(時々手作り)を愛する東京在住の会社員。天気がいい週末には自転車で本屋さん巡りをするのが趣味といえば趣味。読書は雑読派、好きな作家は、小川洋子さん、宮下奈都さん。
Column
週末の旅は本屋さん
新幹線や飛行機に乗らなくても、いとも簡単に未知のワンダーランドへと飛んでいける場所がある。それは書店。そこでは、素晴らしい知的興奮に満ちた体験があなたを待つ。さすらいの書店マニア・小寺律さんが、百花繚乱の個性を放つ注目の本屋さんへとナビゲートします!
2014.03.29(土)
文・撮影=小寺律