隣の部屋から聞こえてきたのは

 もしかして、この部屋は子ども部屋だったのかな……ふと、想像の中で顔のぼやけた子どもが自分を見ているような気がして寒気がしました。

 お母さんとお父さんに会いたい。一目でいいから2人を見て安心したい――Yさんは手にしていた本を放ると立ち上がり、そっと引き戸を開けて外に出たのです。

 部屋の敷居をまたいで廊下に出ると、外はすっかり夕暮れ時になっており、冷たいプールの中に入ったように全身を冷気が包みました。

 ガヤガヤガヤ。

 その瞬間、不思議なことに隣の部屋から大勢の大人たちの話し声が聞こえたのです。

「え?」

 大人たちがいるのはもう少し先だったはず。自分がいた部屋の真隣の部屋はそんな大勢が入れるほど大きいのか。なにより、なぜ今まで声がしなかったのか。

 大人の今ならいくらでもそんな疑問が頭をもたげ、あんなことはしなかったでしょう。

 しかし、当時のYさんではそんな論理立てた疑問など抱きようもなく「お母さんとお父さんがそこにいる」という一心でその部屋の襖を開けてしまったのです。

 部屋の中には“こたつ”がひとつ、ぽつんと置いてありました。

(後篇に続く)

次の記事に続く 夢か現実か……小さな子どもが迷い込んでしまった“歪んだ...

Column

禍話

2016年からライブ配信サービス「TwitCasting」で放送されている怪談チャンネル「禍話(まがばなし)」。北九州で書店員をしている語り手のかぁなっきさんと、その後輩であり映画ライターとして活躍中の加藤よしきさんの織りなす珠玉の怪談たちは、一度聞いたら記憶に焼き付いてしまう不気味なものばかりです。