お湯に浸かった瞬間にとろりと肌になじみ、やさしく包み込んでくれるアルカリ泉はまさに「とろ湯」!著書『おいしいひとり温泉はやめられない』などで、ひとり温泉の楽しみを発信する温泉エッセイスト・山崎まゆみさんに、その魅力を伺った。


お湯を両手ですくい上げると、手の上でお湯が転がるような感覚

――早速ですが、山崎さんと“とろ湯”の出会いについて教えてください。

 初めて“とろ湯”と出会ったときの感動は今でも忘れられません。お湯を両手ですくい上げたとき、手の上でお湯が転がるような感覚がありました。お風呂上がりも、洗い流したはずなのに肌にとろりとした感覚が残っているようで驚きました。

――代表的な“とろ湯”の名湯はありますか?

 私が入った中でも名湯は、壁湯温泉(大分県)や、花巻温泉郷「鉛温泉 藤三旅館」(岩手県)、白馬八方温泉(長野県)。“日本一の強アルカリ性温泉”として高校の化学の教科書にも載った埼玉・都幾川温泉の「旅館とき川」も印象的でした。鳴子温泉郷「旬樹庵 琢ひで」(宮城県)も忘れられません。

 まるでうなぎを摑んでいるような、とろっとろの肌ざわりなんです。なかでもおすすめは、静岡の「観音温泉」。“飲む温泉”で知られていますが、湧出量が豊富で、泉質もとても良くて。料理もおいしくて、特に温泉水を使った釜飯は絶品です。

――行ってみたい! “とろ湯”のひとつに「モール泉」もあるとか。どんな温泉なんですか?

 モール泉とは、地下に堆積した植物が、長い年月をかけて泥炭(ピート)になる手前の段階で、その成分が湯に溶け出した温泉です。黒っぽいお湯の色と、湿り気のある森のような独特な香りが特徴で、私は“和風アロマ”と呼んでいます。北海道の十勝川温泉が有名どころですが、実は東京にもあるんですよ。蒲田の銭湯「改正湯」もそのひとつ。ここはお湯の色がとても濃くて、手を5センチほど入れると、見えなくなるくらい黒いんです。

――改めて山崎さんにとって“とろ湯”の魅力とは?

 安心して身をゆだねられる“包まれ感”です。ちょっと元気がないときや、静かに内省したいときに入りたくなります。ひとり温泉にぴったりのお湯だと思います。

山崎まゆみさん

世界33か国、1000か所以上の温泉を訪問。『ひとり温泉 おいしいごはん』や『おいしいひとり温泉はやめられない』(河出文庫)など温泉にまつわる著書も多数手がける。

伊豆・奥下田
飲泉自家源泉かけ流しの宿 観音温泉

所在地 静岡県下田市横川1092-1 
電話番号 0558-28-1234
料金 ひとり料金/1泊2食付き 26,400円~
ひとり対応/通年可

CREA Due 2026年1月号
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