自分の人生を選べていなかった時期があった

――杉野さんが演じられるのは、草彅さん演じるシッダールタに魅了され、生涯の友となるゴーヴィンダ役。どういう人物と思われましたか?

 師の教えに忠実な人です。ある種、普通の感覚を持った人なので、お芝居を観る方が共感しやすいのかなと、ふわっと思っています。まだ本稽古にも入っていませんし、深くは理解できていませんが。

――現時点で『シッダールタ』の物語についてはどのように感じていらっしゃいますか?

 シッダールタの半生が描かれていますが、彼の生き方に憧れましたし、励まされるような気持ちになりました。人生に無駄なことはないんじゃないかという気持ちになりましたね。

――父親や師の教え通りではなく、自らの道を選んでいくところに励まされたのでしょうか。

 それもあります。人が苦しいと感じるのは、誰かに支配されたり、コントロールされることなのではないかなと思うんですね。僕も自分の人生を選べていなかった時期がありました。20代前半は生き延びるための選択をしていたので、気づけば苦しくなってしまっていたんです。

 自分自身に向き合うことから逃げて、本当にしたいこと、何が好きで何が嫌なのかを見ないようにしていたからだと気づいて、抜け出せるようになりました。それに気づけたのも、周囲に支えてくださる方がいたからなのですが。

――ご自身について、すごく深く考えていらっしゃるんですね。

 客観視できるようになったのも最近の話です。30歳になるタイミングで、『シッダールタ』のこともいろいろ考えるうちにそう思いました。すべてが必然だったような気がします。

誰かの喜びが自分の喜びだったけれど……

――草彅さんとは2年前の『罠の戦争』で共演なさいました。草彅さんは、終盤のお二人が対峙する場面で、杉野さんの本質に触れた気がして、グッときたとおっしゃっていました。それで、いつか舞台やれたらいいねとお話しされたと。

 えー嬉しい! そんなことを思ってくださっていたなんて知りませんでした。

 草彅さんは本当に素敵な先輩です。現場ではそういう姿を見せませんが、ストイックですし、これまでいろんな景色を見てこられたんだろうと感じました。お芝居では、ものすごい集中力でいらっしゃるんです。本番になるとガラッとオーラが変わって、役の人物に入り込まれる。一瞬、一観客になってしまいそうになりました。

 今回、舞台で共演させていただけることになって、本当に嬉しいです。

――杉野さんは4年前に、ユージン・オニール作の『夜への長い旅路』で初舞台を踏まれました。演出家はフィリップ・ブリーンさん。初めての舞台はいかがでしたか?

 今振り返ると、もうちょっとできたんじゃないかという心残りがあります。舞台について何もわからないところから始めたので、セリフを覚えるのに必死だったり、怖さや不安の方が勝っていました。まだコロナ禍で、フィリップさんの稽古もリモートだったんです。

 でも、今回はもっと楽しめそうな感覚があります。不安よりもワクワクの方が大きいですね。

――杉野さんの考える、「理想の演技」とはどういうものですか?

 演じる側で言うと、集中して無になれることが理想かなと思います。お客さんに対しては、どれだけお客さんの心を動かすことができるか、感動してもらえるようなことができるのかなと今は思っています。

――俳優のお仕事において、どういうところに喜びを感じていらっしゃるのでしょう。

 今までは、誰かが自分の活躍を喜んでくれるとか、誰かの喜びが自分の喜びだったのですが、最近ちょっと変わってきて、自分自身の喜びにフォーカスを当てられるようになってきた感じがします。苦しいことも含めて楽しいと思えるんじゃないかなという予感があります。白井さんとのプレ稽古を経て、そんなことを思いました。

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