そもそも、僕が英語を学び始めたのは、旅のためでも、キャリアのためでもなかった。実は、もっと切実な理由。僕はゲイで、日本に住み続けることにどこか不安を感じていた。もしゲイということが世間に意図せずバレてしまい、行き場がなくなったとき、逃げ場所になる“もう一つの居場所”をつくっておきたかった。そのためには英語が必要。僕にとって英語は、「生きるための手段」だった。

自分に課した2つの学習ルール

 学び始めた頃の僕の英語力は、本当にゼロに近かった。まずは「I, my, me, mine」からのスタート。中学英語の文法書を読み直し、ツアーの移動中も単語帳とにらめっこ。勉強が苦手な僕でも続けられたのは、自分なりの“ルール”を決めたからだ。

「1日5単語を覚える」

「それぞれの単語を使った例文を2つずつつくる」

 ただ覚えるだけじゃなくて、ちゃんと使える状態になるまで、次の単語に進まない。最初は紙のノートに書いていたけど、途中からiPadに切り替えて、Goodnotesで記録をつけるようになった。そうやって地道に積み重ねたことで、少しずつ語彙も増えていった。いやー、めっちゃ頑張った(笑)。

 もちろん、何度もくじけそうになった。「勉強」って思うと途端につらくなるから、自分の中ではゲームみたいな感覚で、飽きずに続けられるように工夫したりして。そうして学んだ分だけ、ちゃんと身についていく。発音だってめちゃくちゃだったけれど、相手に伝わると、それがただただ嬉しかった。嬉しいから、また話したくなる。いつの間にか、英語が「自分を広げてくれる道具」になっていた。

 英語が話せるようになったことで、友だちも増えた。旅がもっと楽しくなり、知らない世界に対して、怖さよりもワクワクのほうが大きくなった。旅先での英語って、実はそこまでハードルが高くないと思う。特に英語圏じゃない国では、お互いにネイティブじゃないからこそ、わかり合おうとする努力がちゃんと通じる。今はGoogle翻訳もあるし、ChatGPTといった便利なツールもある。「英語ができるかどうか」より、「話してみようと思うかどうか」のほうが、もっと大切。

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