サンチェスのほうには、今回ディーヴァーと創作上のパートナーを組むことになったイザベラ・マルドナード自身も少なからず投影されているようです。本書以前にもラテン系の女性の捜査官や刑事が活躍するサスペンス/スリラー作品を八作刊行し、うちFBI捜査官ダニエラ・ベガが主人公のA Forgotten Killでアメリカ探偵作家クラブ賞ペーパーバック部門の最終候補となったマルドナードは、自身、作家になる前は二十年以上にわたって捜査機関に奉職していました。

 クアンティコにあるFBIナショナル・アカデミーの卒業生でもあるマルドナードもラテン系で、所属していた警察本部では、そうしたルーツを持つ女性として初めて警部の地位にのぼりつめるなど、赫奕たるキャリアを築いたのち、CSIなどを率いる部署の長を最後に引退、かねてより大ファンだったミステリー作家を目指しはじめたのだそうです。デビュー作は二〇一七年のBlood’s Echo。以降、順調にキャリアを重ねてゆき、代表作The Cipherはアマゾンでベストセラー1位となったほか、ウォールストリート・ジャーナルのベストセラーリストにランクインするなど話題となり、ネットフリックスでジェニファー・ロペス主演による映像化が決定しています。

 そんな新鋭マルドナードとジェフリー・ディーヴァーがタッグを組んだ経緯はわかっていませんが、ディーヴァーはマルドナードのThe Cipherに賛辞を贈っていますから、その時点で両者になんらかのつながりはあったのかもしれません。「自分は本書を一気読みしたし、読者のみなさんもそうなるだろうと保証する」というのがディーヴァーがThe Cipherに寄せた賛辞です。

 一九九〇年代からノンストップ・サスペンスの最前線を走ってきたジェフリー・ディーヴァーと、専門知識をひっさげてそのジャンルに参入した新鋭イザベラ・マルドナードのタッグ。その最初の作品『スパイダー・ゲーム』は、まるでディーヴァー作品のような構造と面白さを持ちつつ、その初期の作風を思い出させる疾走感と熱量を備えた快作となりました。ふたりはすでに第二作を完成させており、二〇二五年九月にアメリカなどで刊行されます。この新作The Grave Artistも、小社から邦訳刊行の予定です。

スパイダー・ゲーム

定価 1,540円(税込)
文藝春秋
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2025.09.24(水)