ゴリラのイケメンはイクメン

 一方、女性が外に出て働き始める現代を「本来の姿に戻っただけで、新しい時代が来たわけではない」と山極さん。元の姿に戻ったにもかかわらず、仕事と子育てを両立できなくなってしまったのはなぜなのか。

「ご近所付き合いなどの共同体が機能しなくなったことが大きく影響しています。狩猟採集時代から人間は、共同体の中で子どもを育ててきました。ゴリラで言えば、メスは子どもを産んで授乳期を終えるとオスに子どもを預けて自由になる。集団の外へ出るメスもいます。ゴリラのメスは子育ての能力を持つオスを相手に選ぶんです。

 例えば、名古屋の東山動植物園で飼育されているニシローランドゴリラのオス・シャバーニは“イケメンゴリラ”として有名ですが、オーストラリアのタロンガ動物園からやってきた若かりし頃は、自分の力を示そうとメスを突き飛ばしたりとやんちゃでした。ところが子どもが産まれると強い力を最小限に抑えて優しくなり、どんどんかっこよくなったんです。ゴリラのイケメンはイクメンなんですね。人間も男女が平等で対等な付き合いであれば、自然と両立できるはず。

 そして、子育ての中で大きな役割を担うのが高齢者の存在です。介護や手助けが必要になりながらも人間が長生きになったのは、孫の育児を手助けするためなんです。だから人間だけが閉経後、繁殖できなくても長生きする。さらに、子どもにとって親に相談できない悩みも機嫌良く聞いてくれる存在でもありますから、気負わず手を借りてほしい」

2025.08.20(水)
文=高本亜紀
写真提供=山極寿一

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※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

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