知っておけばより楽しめる「歌舞伎の基本・お約束」を解説
【4】見得を切る

「大見得(おおみえ)を切る」という言葉の語源となっているのがこの「見得(みえ)」です。歌舞伎には、俳優がポーズを取り、静止する場面があります。
これは感情の高ぶりなどを表現する演技で、多くの場合、「見得」には「ツケ(舞台の効果音)」がつきもの。向かって右側の上手(かみて)にツケ板と呼ばれる板が置かれており、俳優の演技に合わせて「バタバタ」とこの板を打ちます。これを受け持つ人を「ツケ打ち」と言います。
見得は俳優の恰好よさを堪能できるシーンでもありますので、思う存分眺めてうっとりしてください。
【5】御簾越しの下座音楽
客席から見て舞台の左側、下手(しもて)にある「黒御簾(くろみす)」。実はこの中には演奏家たちがいます。いわば歌舞伎のオーケストラピットです。
主に「唄」「三味線」「鳴物(太鼓など)」の3セクションがあり、舞台の音楽のみならず、効果音を担当することもあります。
【6】衣裳と化粧
歌舞伎の化粧と言えば、力強い線で描かれる「隈取」や白塗りをイメージする人が多いはず。白塗りは善人や高貴な人の証。顔を赤く塗っている「赤っ面(あかっつら)」は悪役です。また隈取も赤や青、茶などの、色や構図によって意味が異なり、化粧で役割がわかるようになっています。
今作で松也さんが演じる二役、羅刹微塵と三日月宗近も、化粧でもその違いを表しています。
また、衣裳も歌舞伎も見どころのひとつ。華やかなお姫様の衣裳、武士の鎧姿、庶民の暮らしぶりを示す簡素なもの、貧乏長屋の住人のツギハギだらけの着物、踊りで使う仕掛けがたくさんある衣裳など、色鮮やかで多種多様な衣裳が登場します。
照明がなかった時代からお客さんの目を楽しませてきた歌舞伎ならではのインパクトのあるデザインです。こちらも俳優さんの家紋や、屋号が入った着物が使われるといった遊び心が織り込まれることもしばしば。

『歌舞伎刀剣乱舞』では、ゲームのキャラクターたちの衣裳をベースに、歌舞伎ならではのアレンジが加わっています。初演では南座で衣裳の展示が行われたほど評判だったこだわりの装いです。陸奥守吉行に関しては、アレンジはほとんどしておらず、ほぼゲームに近い姿になっている、と松也さんが囲み取材で話していました。
一方、ゲームでは洋装である加州清光はかなりアレンジされていますが、全体的な雰囲気はまさにゲームの加州清光。衣裳も見逃せません!
【7】古典歌舞伎と新作歌舞伎

歌舞伎は400年の歴史を持ち、現在まで絶えず上演されている作品がある一方で、時代に合った新作を次々に発表し続けています。例えば、今年1月にはNHKでもドラマ化されている時代小説『大富豪同心』が歌舞伎として上演されました。7月の歌舞伎座でも『鬼平犯科帳』が松本幸四郎さんの主演で上演されました。常連のお客さんだけでなく、新たなお客さんにも足を運んでもらうための挑戦が常に行われています。
一方、古典歌舞伎の良さは、今まで幾度も上演されてきた作品の持つ力を感じられることです。どちらにもそれぞれ魅力があり、生の舞台の迫力はすごいです。
初心者の方は、新作のほうが鑑賞しやすいと思います。古典歌舞伎はストーリーを確認してから行くことをおすすめします。
会場には楽しんでもらうための工夫がたくさん
今作の初日を迎え、「時間遡行軍が開演前の劇場にいた」、「2階には衣裳のイメージスケッチが貼ってあった」、「ご案内などのピクトグラムが刀剣乱舞仕様になっている」など、SNSが様々な発見で盛り上がっています。
またカーテンコールは撮影可、大向うは誰でもかけてOKとのこと!
客席を巻き込む仕掛けも多数用意されています。鞄は口が閉じるものがおすすめです(実際に行ったらこの意味がわかるはず)。
2025.08.07(木)
文=宇野なおみ
写真=佐藤 亘