帰国後半年してから報告しに行ったらめちゃくちゃ怒られた
――旅の詳細はネタバレを避けて著書に譲りますが、山口さんの後書きを読むと、旅から帰った古舘さんが山口さんのもとをちゃんと訪ねたのは帰国後半年後だったそうですね。普通に考えたら真っ先に報告に行くのが筋だと思うんですが、どうして?
古舘 すぐに訪ねて、「こうこうこうでした」と報告をして、意見やアドバイスを聞くのが、ちょっと嫌だったんです。一郎さんって、やっぱり僕の中ですごく大きな存在なんですね。ミュージシャンとしても背中も見えないような大先輩だし、すごく尊敬している反面、その才能のもの凄さへの畏怖もあって。だから、2カ月の旅で自分なりに得られた幾つかの答えについて、すぐに一郎さんと答え合わせをしたくなかった。ようやく自分の中の声を、自分なりの答えを信じて生きていいんだ、と思えるようになったのに、ブレたらどうしよう?という怖さがあった。旅の終盤、カトマンズにいる頃には、一郎さんへの恨みは途方もない感謝に変わっていたし、遠くにいる一郎さんをとても身近に感じていた。もはや謎の師弟愛というか、世の礼節なんて僕と一郎さんの間には通用しないんだ!と、勝手に二人の関係を自分の中でアップデートさせて、そのまま逃亡していたんですね。

――で、半年後に山口さんを訪ねてみると?
古舘 めちゃくちゃ怒ってました。もう、地獄絵図。とてもここでは話せないレベルの説教を喰らって、バンコク以来の過呼吸になりかけました……。
今後について尋ねると…「僕も僕自身に期待しています」
――(笑)。さて、初著書を書かれた古舘佑太郎は、このあとどこへ向かうでしょうか?
古舘 バンド時代、僕は一人で結果に執着して、訳が分からなくなったりもしていたんですが、この本は、「売れたい」なんて考えも切迫感もなく、とても静かな気持ちで書くことができました。純粋に、「いいものができた」と思います。今は音楽に対する焦りや強迫観念がごっそりとなくなった分、感情がとてもフラット。初めて音楽を聴いた15歳の頃の気持ちに近いかもしれない。今後のことは、あえてあまり決め込まないようにしているんですが、音楽も、芝居も、文筆も、このフラットな気持ちのままで向き合うことができたら面白いものが生まれるんじゃないかと、僕も僕自身に期待しています。



カトマンズに飛ばされて 旅嫌いな僕のアジア10カ国激闘日記
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2025.04.25(金)
文=内田正樹