――(笑)。特に、“師弟関係”というわけでもないんですよね?
古舘 THE 2の後半、一郎さんは、プロデューサー兼レーベル出資元みたいなスタンスで関わってくれていて。つまり、“恩人”ですね。ある意味では、“師弟関係”と呼べるかもしれません。時間も身銭もスキルも注いでくれて、何とかTHE 2をものにさせようと苦心してくれた。それなのに、結局、解散することになっちゃって。もう流石に怒られるというか呆れられるだろうという覚悟で解散を報告に行ったら、「よし、お前、カトマンズに行け!」ですからね。

――懐かしのバラエティ番組、「進め!電波少年」みたい(笑)。
古舘 もう、面食らっちゃって。「え? はい? あの、バンドは……」、「いや、もうバンドの話はいいよ。まあ、俺も力が及ばずすまなかった。よし、お前、カトマンズに行け!」と。まあ、きっと思い付きで喋っているだけですぐに忘れるだろうと思って、その場は適当に相槌を打っていたんですが、その後も覚えていて、どうやら完全に本気だと分かって。
――しかも、「自分の金で行くな」と、古舘さんの口座に旅行資金が振り込まれていたそうで。
古舘 それ、ミュージシャンの先輩とか一部の知り合いから、「あいつは先輩のお金で旅に行きやがって」とか悪口言われてるらしいんですが。
――ああ、つまり、「自腹で行けよ」と。
古舘 この場を借りて言っておくと、僕、もちろん最初は相当断りましたからね(苦笑)。人の金で旅に行くって意味が分かんないし、僕だってそれぐらいの常識や倫理感はありますよ。でも、一郎さんは、「自分のお金で行くな」と。どうせ僕が自分のお金で旅に出ても楽をして好きなところに行って帰ってくるだけだと見透かしていたみたいで。
最後は「失うもの、何があんねん?」とやけくそで旅に出た
――まあ、山口さんには山口さんなりに思いがあって、それを古舘さんに託した格好だったのですが、そのあたりは巻末の後書きで山口さん自身が語っておられるので、本記事の読者には、ぜひそちらを読んでいただくとして。それにしても、すごい発想ですよね。
古舘 たしかにいろいろすごいんですよ。たとえ可愛がっている後輩とはいえ、僕みたいに旅なんてしたこともない神経質で潔癖症の雑魚な素人にアジア10カ国を回らせて、もし事故があったり、最悪、死んだりでもしたら、一郎さんが叩かれかねないわけじゃないですか。

――まあ、その可能性もゼロではない。
古舘 いずれにせよ、一郎さんには特に何のメリットもない。何でこんなことができるんだ?とは思いましたね。自分で言うのも何だけど、「かわいい子には旅をさせよ」とか、「獅子は我が子を千尋の谷に落とす」の究極型なのかな?とか考えちゃって。
――現金まで渡して千尋の谷へ(笑)。
古舘 だから、僕もとにかく無事で帰ってこなきゃな、とは思いましたね。むちゃくちゃ嫌でしたけど。でも、旅の始めはずっと恨んでいましたよ。旅の2日目で早々に過呼吸状態に陥りましたし。
2025.04.25(金)
文=内田正樹