〈「うちの家系に音楽の才能があるなんて思うか?」「もう絶対に音楽で見返してやる」古舘佑太郎(34)が父・伊知郎への反骨心むき出しだった学生時代《テレ朝の音楽番組で……》〉から続く
『カトマンズに飛ばされて 旅嫌いな僕のアジア10カ国激闘日記』の重版が決まり、様々な分野で活躍中の古舘佑太郎。そもそもの旅のきっかけは“恩人”と語るサカナクション・山口一郎の一言だった。気が進まない中、アジア各地を放浪して見たものは……。(全3回の3回目/#1、#2を読む)

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バンド解散直後に告げられた“恩人”からの無茶苦茶な指令
――今回、古舘さんの初の著書に綴られているのは、潔癖症で旅の経験がほとんどなかった古舘さんが、昨年、2カ月間でアジア10カ国を旅し、悪戦苦闘しながら揺れ動いた様々な感情の記録です。そして、この旅の起点には、ミュージシャンの山口一郎さん(サカナクション)が深く関わっています。
古舘 そうですね。はい。
――山口さんは、古舘さんが組んだ人生で2回目のバンド、THE 2のプロデュースを手掛けていらっしゃいました。しかし、バンドは残念ながら解散。その解散を報告した際、突如、山口さんから「お前、カトマンズに行ってこい」と言われ、古舘さんは旅することに。改めて、古舘さんにとって山口さんとはどういう存在なのでしょうか?
古舘 一言で語るのはものすごく難しいんですけど……昔の落語家の師匠みたいな存在、というか。喜ぶべきとこで叱ってきて、叱るべきタイミングでやさしく褒めてくれるという、ちょっと読めないところがあって。
――と、いうと?
古舘 例えば、最初のバンド、The SALOVERSでメジャーデビューした頃、僕の周りにはいろんな大人たちが集まってきた。でも、そういう人たちは、バンドが終わると、みんなあっという間に離れていった。一郎さんはそうやって人が僕から離れていくようなタイミングに、突然、僕の前に現れて、「お前はすごい!」と背中を押してくれた人。凹んでいるときにそう言ってもらえるのはうれしいし、なけなしの自信にも繋がるから、走り出せる。でも、少し僕の調子が良くなってくると、すかさず、「調子に乗るな!」と叱ってくる……あれ、今話しながら気が付いたけど、これ、もしかして永久機関みたいにずっと止まらないシステムなのかな。
2025.04.25(金)
文=内田正樹