次々と起こる心霊現象

しばらくして非常灯がついたら、これまたベテランの、60手前くらいの照明さんが、顔を引きつらせて作業しています。
「どどど、どうなってんだ……どうなってんだこれ……」
ありえない、という顔をして何度も言っています。
もう受け入れよう。これはドッキリではない。
ほんまにやばいところに来てもうたんや。
ようやく僕も今起きてる現実から目を逸らすことをやめました。スタッフも出演者も、みんな震え上がっています。現場は軽くパニック状態。
そんな中、女性タレントさんが「気持ち悪い」と言いだしました。かと思ったら、草むらに走って行き嘔吐(おうと)。
目の前で女性タレントが走り込み嘔吐。
カオス。
再度、「とにかく早く撮ってしまいましょう」ということになり、収録が再開されます。
僕は自分の話を無事終えました。正確に言うと終わらされました。3、4箇所噛(か)んだけど、無理やりオッケーテイクとなりました。ロケバスに戻って他の人の出番が終わるのを待ちます。
絶対に外に出ない。早く帰りたい。
ん? おかしい。体がおかしい。
体が重い。というか背中が重い。なんか背負ってる感じ。腕も重い。
重いものを持ってるというか、大きめの畳んだ段ボールを数枚重ねて両手で持ってる時、重たくないのに疲れるじゃないですか? あの感じ。
車の中で休んでいると、1時間半くらいで収録は終わり、テレビ局に戻ることになりました。戻る道中はしゃべるのもしんどい。あきらかに体調が悪化していました。
体がだるいし、熱っぽい。夏の暑さとは違う、なんか体も熱い。早く帰りたい。
しばらく車に揺られ、あのトンネルから離れていくにつれて、緊張が解けてきて平常心を保てるようになってきました。
もしかして憑(つ)いてる?
いや、憑いてない、憑いてない。慣れへんテレビ収録やったからな。
肩に力入ってただけやん。興奮状態やっただけ。そうそう、そうに決まってる。
そう思いながら、いや自分で自分に思い込ませながらテレビ局に到着し家路につきます。
好井まさお(よしい・まさお)
1984年生まれ。大阪府出身。NSC東京校を卒業後、2007年に井下昌城(現・井下大活躍)とお笑いコンビ「井下好井」を結成。2022年12月31日に解散し、ピン芸人に。それ以前から俳優、怪談師としても活躍。YouTubeチャンネルは、ファッションに特化した『好井&カナメクト』、怖い話に特化した『好井まさおの怪談を浴びる会』などを運営。『好井まさおの怪談を浴びる会サロン』も開設。2025年2月にスタートした全国ツアー「劇場版 好井まさおの怪談を浴びる会」も盛況。
好井まさおの怪談を浴びる会 https://www.youtube.com/@yoshii-abirukai

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2025.03.27(木)
文=好井まさお、CREA編集部