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立ち入り禁止の山

 すると、ゆっくり車が止まります。

 カーテンを開け、ロケバスから窓の外を見ると、到着した場所は、山の入り口。

 ここほんまに東京か? そう思ってまうぐらい、大自然に囲まれていました。

 山の入り口には、学校の校門のようなゲートがあり、重厚な南京錠(なんきんじょう)で鍵がかけられています。さらに、乗り越えて侵入されないための高いフェンスもズラーッと門の横に併設されていました。この山は国によって立ち入り禁止、即ち閉山されているとのことでした。

 どうやら今回は特別に許可を得て入山できるようです。

 役所の方らしき人がゲートを開け、ロケバスが通っていく中、心霊スポットに詳しい出演者たちの話し声が聞こえてきます。

「え? ここほんとにやばい心霊スポットじゃん」

「うわ、ここ〇〇トンネルあるとこでしょ?」

 どうやら都内でも有数のスポットらしいことが寝起きの僕でもわかりました。

 季節は初夏ということもあって、心霊スポット巡りに来ている一般の方の車も数台あります。しかし、一般の方は許可を得ていないので、その先には進めず、帰らされていきます。

 引き返す車たちが心から羨しい。

 あー今から怖い所で怖い話をするんや。

 あー帰りたい。

 そう思っている一方、ロケバスは曲がりくねった峠道をどんどん上がっていきます。

 どこ行くねん。

 4、5分走ったところで車が止まり、若いスタッフさんが一旦バスを降りました。

 何事なん?

 すぐにスタッフさんが戻ってきて大きめの声で言います。

「すいません! 木が道を塞いでおり、一旦、木を動かす作業に入ります」

 キガミチヲフサイデオリ、キヲウゴカスサギョウ?

 ??????? 初めて聞いた言葉。

 窓の外を見てすぐ理解しました。

 本当に手入れされていない山。道路の真ん中に木が横たわり、その上で蝉(せみ)が鳴いていました。

 男性陣総出で木を道路脇に移動させる × 4

 その後も、四度大木を動かしました。最終的に、山の入り口から山頂のトンネル付近にたどり着くまで小一時間かかりました。

 肉体労働付き怪談収録。後にも先にもこんなことは今のところありません。

 これからも多分ないやろうな。

 収録場所のトンネル付近のちょっと開けた駐車スペースに到着しました。

 しかし、怪談を話すにはまだ早い。夕日がきれいすぎる。

 山頂付近はさすがに見晴らしがよく、東京の街並みがきれいに見えます。

「日没を待って収録を始めまーす」

 暇。暇すぎる。

 携帯の電波はもちろん入りません。

2025.03.27(木)
文=好井まさお、CREA編集部