この記事の連載

 “ハック”が得意な「令和ロマン筋(©上坂あゆ美)」がムキムキに発達している(?)、上坂あゆ美さんと麻布競馬場さん。直木賞候補となった『令和元年の人生ゲーム』や、「タワマン文学」として話題をさらったデビュー作『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』を読んだ上坂さんが、アザケイさんの創作術に迫ります。そして、破天荒な家族とのややハードなエピソードも収録している上坂さんの新刊『地球と書いて〈ほし〉って読むな』(以下『ちきゅほし』)をもとに、「良いエッセイの条件とは?」を考察しました。(全2回の2回目。前篇を読む


小説というより“現実DJ”をしている感覚

上坂 アザケイさんは、小説でもハックしてるんですか?

アザケイ 多分、してるんですよ。なぜかと言うと、俺って内発的動機コンプレックスで、人生に初期衝動とかないんです。だから、スタンス的には小説を書いてるというよりはむしろ、現実の編集、“現実DJ”をしている感覚。実際にあった面白かった話とか、他人から聞いた面白い人間の存在を全部繋げて最強の動物を作ってる、みたいな感じなんです。

 「どうして作家業をやってるんですか?」って聞かれたら、「面白いから」なんですよ。小説を書くのも楽しいし、小説家という肩書のおかげで入れる場所が増えるのも楽しいし。そこはやっぱり自分のためなんです。でも、「死ぬまで作家を続けたいですか?」って言われたら、作家業は今の時点での最適解にすぎない。もともと熱烈に言いたいことがあって小説家になったタイプではないからこそ、ハックにならざるを得ないとも言えます。

上坂 「コスパ」「タイパ」みたいな概念で言えば、小説やエッセイを何万字も書くことって、コスパもタイパも悪いと思うのですが。私だったら「今の時点での最適解だから」という理由だけでは普通に無理なんですが、アザケイさんは、どうしてできるんですか?

アザケイ みんなが同じかわからないですけど、ずっと頭の中で喋ってるんですよ。人と話せないコロナ禍でも、マスクをして一人でブツブツ喋りながら歩いてたくらい。ずっと喋ってるから、それを文字にすることに対してあんまりコスト意識がないんですよね。文章は思考の副産物、おからみたいなものというか。

上坂 そこは私も近いかもしれない。私、短歌とか作品のことを人生のうんこだと思ってるので。

アザケイ 同じだ(笑)

上坂 うん。生きててご飯食べた結果、みたいな。だから「◯日までに短歌 10首いけますか?」とか言われると、「◯日までにうんこ10回出ますか?」って聞かれてるみたい。「無理。無理。わかんない。その日までに出るかわかんない」って思います。編集者にそんなこと言えないですけど。

2025.03.28(金)
文=ライフスタイル出版部
撮影=佐藤 亘