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俺だけが正直者で、みんなは嘘つき

上坂 これから短歌を入れた小説とか書く予定ないんですか?

アザケイ 書くとしたら多分、インチキ歌人が出てくる小説を書くと思います(笑)。エモ短歌みたいなものを書く、胡散臭い奴の話。俺、ジャンルとして好きなものの中で、一番嫌いなものを探すのが結構好きなんですよ。嫌いな奴をまっすぐ嫌いでいることの訓練をしなくちゃ、人間の心って澄みすぎちゃう。でもそれを現実社会でやると角が立つので、小説でやってる感じがあります。

――アザケイさんの作品には、ある種のどうしようもない人たち、みっともなくて痛々しい人たちが次から次へと出てきますよね。ずっと思っていたんですけど、彼らについてはどんな感情を抱いているんですか?

アザケイ 全員、めっちゃ好きっすよ。今って、「100%の悪人はフェイクじゃね?」ってみんなが思う時代じゃないですか。最近の子供向けのアニメを観ていても、悪役が悪役になった理由が説明される。でも、100%の善人だって嘘じゃないですか。小説によく出てくる、みんなが感情移入できる主人公、みたいなまっすぐすぎる人間は嫌い。「みんなから愛されて、みんなを正しい方向に変えていく」とか言われると、こいつマジで社会で生きてんのかよって思う。それってつまり嘘つきじゃないですか。人間のリアルをわかってないなって。

――嘘のない、リアルな姿をそのまま小説に落とし込んでいるだけだと。

アザケイ 俺だけが正直者で、みんなは嘘つきで良い子ぶってる。だから小説を読んで「意地悪な書き方ですね」って言われると、「なんで俺だけ責められるんですか? あの嘘つきたちを糾弾してください」って思います。

2025.03.28(金)
文=ライフスタイル出版部
撮影=佐藤 亘