この記事の連載
角野隼斗さんインタビュー #1
角野隼斗さんインタビュー #2
「新しい景色を見ると、メロディーがわいていくる」
――作中ではピアノのレッスン中に金子勝子先生から「失恋したことないでしょ」と指摘されるシーンがありました。音楽と関係ない実体験が、演奏に跳ね返ってきた経験はありますか?
角野 失恋したことはありますよ。でも、僕の場合は、人間関係に関連する何かで影響を受けることはあまりないかもしれませんね。どちらかというと、新しい景色を見た時とか、美術館でものすごく好きな作品を観た時に影響を受けます。
メロディーがわいてくるんですよ。思い浮かんだメロディーはピアノで弾いてボイスメモに録音。後から曲作りに使ったりします。
自由さと好奇心を武器に
――世界で公演する機会が増えていますが、角野さんの中でずっと変わらないものは何ですか?
角野 「自由さ」でしょうね。2020年にYouTubeを中心に活動していた時から、即興でいろんな楽器を使って演奏してきました。「面白そう」と思ったものは全部試す実験精神があると思います。
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――どうしたら、角野さんのように好奇心を絶やさずにいられるんでしょうか。
角野 それはわからないです。そう生まれたからなのかもしれないし。でも、好奇心を持ち続けることで、「何か違うことをしたい」という気持ちが生まれてくるのは確かです。
例えば、同じ演目を何十回もやったら、演者には飽きる怖さがある。でも観客の方は初めて聴くわけだから、あたかもその時に生み出された音楽のように聴こえなければならない。音楽は生きているわけだから。
その鮮度を失わないためには、好奇心を持ち続けることと、向上心を持ち続けることが大切なんだと思います。
角野隼斗(すみの・はやと)
1995年生まれ。千葉県八千代市出身。ピアノ講師の母の元、幼い頃からピアノに親しむ。開成中高卒業後、東京大学理科一類へ進学。同大学大学院在籍中の2018年、ピティナピアノコンペティション特級グランプリ受賞。2021年、ショパン国際ピアノコンクールセミファイナリスト。2023年から世界を舞台に活動するため、ニューヨークへ移住。2024年10月にワールドワイド・デビューアルバム『Human Universe』をソニー・クラシカルからリリース。これまでジャン=マルク・ルイサダ、金子勝子、吉田友昭の各氏に師事。
映画『角野隼斗ドキュメンタリーフィルム 不確かな軌跡』
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公開日:2月28日(金)
配給:BSフジ、ローソン・ユナイテッドシネマ
制作:ネツゲン
公式HP:https://www.bsfuji.tv/futashikanakiseki/index.html
イントロダクション:
2024年7月14日、日本武道館。13,000人の観客が見守る中、圧倒的なパフォーマンスは観る者すべてを魅了した。そして、一人のピアニストが新たな世界への出発を宣言する。幼少期から数字に魅了され、母のピアノ教室で鍵盤に触れて育った角野隼斗。数々のコンクールで輝かしい成績を収めたていた彼はクラシック音楽以外にも興味を持ち、東京大学理科一類に進学。YouTubeに音ゲーの動画を公開し、後に“Cateen”としてピアノ演奏動画も注目を集めるようになった。従来のピアニストとは異なる道を歩んできた角野だが、大学院時代、“最後の思い出”として出場したピティナピアノコンペティション特級でグランプリを受賞。そして、ショパンコンクールに挑戦するものの、ファイナリストに残ることはなかった。しかし、彼の人生は大きく変わり始めていた。その後、全国ツアーは完売、様々なメディアやステージでも観客を魅了する。角野はなぜここまで人気を得ることが出来るのか? パフォーマンス、ビジュアル、学歴、You Tube、運? それだけではない、何か特別なものが彼にはある。クラシック音楽、ピアノ、そして音楽そのものに対する角野の挑戦を描くドキュメンタリー。時代に選ばれたピアニストが歩む茨の道、その先に待つ未来とは。
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2025.02.27(木)
文=ゆきどっぐ
撮影=釜谷洋史
ヘアメイク=川口陽子
スタイリスト=金野春奈(foo)