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多摩動物公園でのアムールトラの誕生は5年ぶり

 親子の様子について、飼育展示課の川上壮太郎さんにお話を伺いました。

「フタバは生まれたばかりの頃、体が小さかったこともあって行動範囲はとても狭かったのです。そんなフタバを見守るように、イチもそばにいることが多かったですね。放飼場に出るようになると、フタバはあっという間に新しい環境に慣れて、登れなかった場所にもスイスイと進んでいけるようになりました。そういった成長に伴って、徐々にですがフタバ1頭で行動することが多くなりました」

 この日の午前中はまったりとしていた親子ですが、川上さん曰く「成長するとイチと全力でかけっこしたり、レスリングしたりして遊ぶようになった」とのことなので、お母さんと遊んでいる姿が見られる時間帯もあるかもしれません。

 多摩動物公園でのアムールトラの誕生は5年ぶり。山口県周南市徳山動物園生まれのお母さんの「イチ」は繁殖に取り組むため、2019年12月に来園。お父さんの「アルチョム」はドイツのティアパーク・ベルリン生まれで、2017年1月に来園した個体です。

 川上さんがイチとアルチョムの同居を始めたのは、2021年11月のことでした。

「イチの来園後、前任者が複数回、2頭の同居を実施していました。ですが、当時は闘争が多かったようです。その様子から親密度が低いと判断し、同居を一時見送りました。また、猛獣であるトラは国内の飼育スペースが限られています。そのため、国内の血統を管理している担当者の指示により繁殖を制限したことも、この時期になった理由のひとつでした」

 親密度の低かったイチとアルチョム。2頭の関係性を改善すべく行ったのは、まず関係作りだったと言います。

「メスの発情時の行動やオスの反応、表情などを毎日しっかりと観察しています。私自身が以前、上野動物園でスマトラトラを担当していたので、同居に関しては比較的経験が豊富にありました。今回その経験を活かすことができましたし、ほかの種の動物においても、単独性の動物がどのようにしてつがいを形成していくのか、その過程を勉強したり、繁殖するには最低限どのような環境が必要なのかなどを改めて勉強しました。

 また、繁殖に役立てる手法として、ホルモン動態の観察があります。これは多くの動物園が行っていることで、イチに関しても当時は糞中ホルモンの測定を行っていましたが、それよりも、同居のタイミングは個体のコンディションによって変わるものなので、実際に発情やその日のコンディションを見て、同居の有無を判断しました」

 お話を伺うと、日々の観察の重要さを改めて実感します。

2025.02.16(日)
文=高本亜紀
写真=松本輝一