この記事の連載

 CREA WEBでは「猫」特集が今年も好評公開中です。今回は、猫科の動物として多くの人に愛されるアムールトラに会いに、多摩動物公園にお邪魔しました。前後篇合わせて32枚の貴重な撮り下ろしや誕生時の写真とともに、ぜひお楽しみください。

 2024年、東京都多摩動物公園では新しい命がさまざまに誕生しました。4月生まれのアムールトラ・フタバ(オス)、9月生まれのインドサイ・デコポン(メス)です。同年7月には、アジアスイギュウのさち(メス)も誕生し、3頭ともにすくすくと成長しています。

 前篇では、仲の良いアムールトラの親子イチとフタバの凛々しくも愛らしい姿と繁殖の様子をレポート。今回の後篇では、いよいよ誕生したフタバについて、飼育員の方にお話を伺いました。

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そして、無事に出産へ!

 飼育担当者の熱心な観察、日々のケアもあって、イチは昨年4月2日に無事1頭を出産しました。アムールトラの誕生は、同園では5年ぶりのことでした。飼育展示課の川上壮太郎さんにお話を伺いました。

「私自身、トラの出産に立ち会うのは初めての経験でしたが、出産後、イチが疲れているのを感じたと同時に、母性がぐわっと湧き出たような印象を受けました。とてもマイペースな性格なので(子育てできるかどうか)心配していましたが、立派にフタバを育ててくれて安心しています。

 子育てはイチにとってはもちろんのこと、私にとっても新鮮な発見の連続でした。生まれて数週間はイチも私も神経質になっていて、うまく飼育作業ができないことも……。しかし、イチは母性が強くてしっかりと育児をしてくれたので、私がフォローしなくてもフタバを順調に育てくれて、とても助かりました」

 すっかり大きくなったフタバですが、アムールトラは基本、単独で暮らす野生動物。親子のむつまじい様子を見られる時期も限られています。

「トラは単独生活者といわれていますが、野生では母親が単独で3年近く子育てするともいわれています。親子の分離は、フタバの成長スピードを考慮しながら検討する予定です。できるだけ長くイチと一緒にいてもらうことで、生活に関するさまざまなことを学んでもらえたらと思っています」

 また、「父親であるアルチョムともしっかり仲良くなってもらった上で、単独生活をしてもらえたら」と考えているとのこと。川上さんは動物園という環境が関係していると話します。

「動物園では先ほど話した通り、人為的に移動を行うことが多いので、さまざまな個体とペアになる可能性があります。そのため、母、父、血縁のない飼育個体と十分に慣らす必要があると考えています」

2025.02.16(日)
文=高本亜紀
写真=松本輝一