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2頭の様子を慎重に見極めながら……。

「繁殖目的で人為的に園を移動することが多い動物園動物では、個体を飼育環境にしっかりと慣れさせることが重要なんです。飼育場所に嫌なところがあったり、担当者に不安を抱いたりするようであれば、安心して生活できないですからね」

 まず、2頭は格子越しのお見合いから距離を縮めることに。猛獣は一度闘争に発展してしまうと、制止するのが大変。そのため、慎重に時間をかけてタイミングを計っていく必要がありました。

 雌が発情していない時にもお見合いを続け、お互い威嚇したりしない等存在にしっかり慣れたところで、発情の具合を見て同居をしていったそうです。

「飼育担当が観察する中、最初は数秒から数分、そこから一日の中で複数回、1時間前後の同居を何回も繰り返して慣らしていきました。2頭が一緒の空間にいられるのはとても大事なことなので、交尾をしないからといって同居をやめるのではなく、根気よく見守り続けました。

 アムールトラの妊娠は、後期になるまで見た目ではわかりません。妊娠すると定期的にある発情が止まるのですが、個体によっては妊娠時にも発情のような行動を取るので判断が難しいんです。イチの場合、発情は来ていませんでしたが、アルチョムへの執着が非常に強く、姿が見えなくなると鳴くことがありました。鳴くという行動は発情時を中心に起こることなので、本当に判断しづらかったですね。

 ただ、体重が徐々に増えてきたこと、下腹部の膨張、最後の交尾から約2ヵ月半後には乳首が明瞭に見えるようになったことによって、妊娠していると判断しました。

 出産に向けて寝室に巣箱(産箱)を作って、出産が近くなってからはより注意深く観察するように心がけました」

 後篇では、誕生時のフタバとイチの様子を伺います。

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2025.02.16(日)
文=高本亜紀
写真=松本輝一